8. 柿配り
北方に住む知人から大きな荷物が届きました。以前も何度か、この時期に届いたことがあります。柿です。グレープフルーツくらい大きくて、色がツヤツヤして、カリカリに固いから貴石みたいです。切らないかぎり林檎や桃ほど香りがないのも、鉱物的です。
綺麗で重い柿が人を驚かすのが私は好きです。私の小間使いがうちに来るのを待って、たまたまのタイミングというふりをして目の前で柿の箱を開けました。こまちゃんは冷静でした。大きい、とか、送り主は気前がいい、とか感想を言って、一個手に取って、行ってしまった。頼もしいほど冷静な人間だ。
この柿は驚きのために使いたい。驚きこそが人生です。よって自分がひととおり驚いたあとは、周りの人達に配ります。この柿を手渡すと皆目を丸くして、貰えると知ると大人なのに わぁ!と嬉しそうにします。私は秋の使者になった気がします。杖を持って袖なし羽織の小人の爺さん…。自分が何か別の存在だと想像して振る舞うのは、何十年かぶりです。私はそれが楽しくて、柿を配り尽くしました。
後日、こまちゃんは自分の分の柿を誰かにあげたらしい。その人をびっくりさせたかったからだって。なんだ こまちゃんも驚いてたのか。2個あげればよかった。