12. 幽霊
その写真では、向かい合った2人が明度の高い画面で笑いあっています。一方は医者で他方は患者であるということを匂わせる小物が不自然にたくさん写り込んでいます。こんなでかい口開けて笑う?私の小間使いは侮蔑の表情で言いました。
気持ちは分かります。私も嫌で仕方なかったが、そのように指示されるのですよ。人助けだと思ってうけた仕事のせいであわてて釈明しなければならず、なぜか自宅で被告人のような気持ちです。
こまちゃんの気持ちは分かります。私たちは、本物のお芝居を除いて 芝居がかった所作を見ることがが大嫌いです。ポスターや映画、テレビドラマ、日常会話をかわす一般人まで。幼児向け番組の着ぐるみじゃあるまいし、大人相手にそんなに大げさで単純化された記号でなければ 通じなくなってるというのでしょうか。
このたび、そういうのを私もしてしまった。忸怩たる思い。
自分自身を表現をしなくなったときが人間、死に時だとぼんやり考えていたことが私にはあります。であれば表現がひどく形式化記号化している人は健康であっても幽霊でしょう。幽霊に取り囲まれてると思ったら、自分も幽霊でした、という物語はよくありますが、まさか現実に起こるとは。
罪滅ぼしに、私は栗ご飯の栗の硬い皮むきを、何百グラム分もしました。台所でこまちゃんは炊飯器に酒をドッボドボ注いでいる。まだ不機嫌なようです。