大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

稽古記録251

2020/8/21 (金) 地下道場

                   <まとめ >

 1.  膜としての体を自覚するための合気道②

 今日は、膜の考え方後半です。

 前回、ひとつながりの膜を介した人体のテンセグリティ化について触れました (稽古記録250参照) 。引き続き、武道と関係ありそうな、人体における膜構造の特徴についてご紹介します。

また合気道では、意識的な反応は遅いため無意識の反射を使う、と説明されることがあります。でも反射は意識的に使えないという矛盾がありました。今日は、下のリンクで紹介する本「アナトミートレイン」からそれに関係ありそうな情報もお伝えします。(関係ないかもしれないけど。)

 

 

1. 神経より速い反応速度

人体全体に及ぶ情報伝達といえば神経系を思い出します。そのほかは、内分泌系もそうです。これは秒単位くらいの遅さです。免疫系となるともっと遅いでしょう。

ひとつながりの膜は第四の情報伝達系です。人体の頭からつま先まで一枚ですから、これを介する変化は圧縮と収縮という機械的振動として伝わります。それは音速と同じ秒速300mです。それと比較すると、神経細胞の伝達速度は秒速数m~数十mと結構遅いのです。

また、振動ですから一点の変化が全体に伝わります(Fig.1)。合気道では相手の上体によって姿勢や重心をすぐ変化させるのが難しいですよね。身体にテンセグリティ構造ができていると、一部の変化が全体に即伝わり、同時にバランスを取り直します。これが相手からの外力に即対応することに役に立つかもしれません。

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 Fig.1 A: 神経細胞。一方向に進みます。B: 蜘蛛の巣などは一端の変化が瞬時に全方位(系全体)に伝わる。膜伝達はこれと同じ。

 

2. 神経系から独立している ー 意識も無意識も関係なし

ちなみに膜の構成細胞の1つである線維芽細胞は、その収縮制御が神経系を介さないというスーパーな細胞です。意識どころか無意識の制御の範疇でもない上、アドレナリンやオキシトシンという分泌物質にも関わらないという独立した系なのです。かっこいいでしょう。合気道の意識無意識の矛盾に悶々としているときには、ちょっと魅力的な系ではありませんか?

 

3. 皮膚の下の膜だけを動かす持ち方と力加減がある?

昔から武道で「『皮膚』の下をわずかに動かすこと」の役割が語られたりします。ほんとかどうかわかりませんが、確かに皮膚のずらしが崩しに一役かっているように感じる体験も時々しますね。あまり気にしていませんでしたが、膜の理屈としてはそういうこともありうるわけです。実際マッサージ師の人たちは、微妙な手の力加減で筋肉ではなく筋膜をうまく捕まえることができるのだし、柔術の師範方の手は握られるだけでもなにか、「ふっ」と力がぬけるような感覚があります。この本には「隣り合った膜のバッグの滑りは、関節として働く」ともあります。その握り方、自分の腕をにぎにぎして試してみようと思います。

 

4.  経路には部位のほかに深度の違いもだいじ

おなじ長く繋がる膜でも、表面に近い浅いものと、骨に近い深いものがあります (Fig.2)。その違いを理解するのは重要です。全身の姿勢の設定は、浅層より深層の走行で決定されるからです。

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 Fig.2 Bの方が深い。これらが一体となる角度の姿勢を取ることで、ひとつながりとして機能する。

 

また深層の走行のほうがジャンクションが多いため、各ジャンクションの角度で調整します。大きなジャンクションの1つは骨盤です (Fig.3)。前回の身体図では走行がクロスしているところが何か所もありますが、どの走行にスイッチするかは角度で選択されます。骨盤の角度が異なると、そこで上半身と下半身が分かれたり、逆半身と繋がったりします。

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 Fig.3 角度によって輪転機みたいな機能。

合気道で「(表面の大きな筋ではなく)骨の周りの細い筋肉を使いなさい」とか、「腰を入れなさい」と先生がおっしゃるのは、この感覚を覚えなさいということかなあ…と考えたりしました。

 

 

 5.おなじみの丹田

全身の繊維網のが繋がったときに、直立位で機械的重心に位置するのが下腹部中間にあたります。いわゆる肚 (丹田) と一致する部位ですね。横隔膜から足の内側アーチを通る強いラインに乗っかります。丹田は肚のあたりにユラユラ浮いている感じでしょう。これ(↓)の複雑なヤツみたいに。

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私は昔、丹田がよくわからなくて自分の臍下3指、表面から3㎝奥をエコーで観察してみました。そのときは「腸しかないぞ」と思いましたが、テンセグリティと考えると重心という物のはないのですよね(↓)。あるのは一点の位置だけ。

f:id:fanon36:20200821175403j:image 釣り合った構造の真ん中は空洞

 

 

 

 

この本で『従来の解剖学では~のように理解されていたが』としばしば古い解剖学を比較に出していますが、私が知っていたのはその従来の知識でしたから、とても勉強になりましたよ。数十年でずいぶん解剖学は進化していたのだなあ。