2020/8/21 (金) 地下道場
1. 膜としての体を自覚するための合気道①
今日は、膜の考え方前半です。
合気道では「力を籠めるのではなく放出する(縮めるのではなく伸ばす)」「筋力ではなく全体のバランスで」と言われます。感覚のことなので練習するしかないのですが、最近自己練習を地味にやっているうちに、「基本動作や構えはそれらの感覚を体得するのに合理的にできているなあ」としみじみ思うので、ちょっと書きます。
1.縮めるのではなく、伸ばす
「折れない手」に代表される、使い方です。しかし伸ばすって不思議ですね。筋肉細胞は縮むことと、弛緩することはできますが、伸びる作用はありません。でも私達は遠くの物を取ろうとして手を伸ばしたり、起き抜けに伸びをしたりして、自分を伸ばすことができるのを体験として知っています。私達の体はどうやって伸びているのでしょうか。
袋の中の圧を上げることで伸びるようです(Fig.1)。
Fig.1風船を延性のない膜で包んだら
Fig.2 筋肉を包む膜が締まると内圧があがり、長軸方向に伸びるよ。筋肉は不連続だが膜はひとつながりの袋です。
2.全体のバランスで。
テンセグリティ模型を作りましたよ (Fig.3,4)。閉じた系において全体の張力で強度を出すものです(Tensegrity=Tension張力+Integrity統合)。建物をレンガのように固めて作るより、ひっぱって作るほうが、1/100の重量の材料で同じ強度がでるようです (Buckminster Fuller (1987), バックミンスター・フラーの宇宙学校: p25)。しかも一部に外力を加えると全体がしなって新しいバランスをとることで吸収されます。
Fig.3 一部を押すと、全体に瞬時に伝わる。それぞれの棒は接しておらず、宙に浮いている。
Fig.4 上のT字は引っ張りの力によって、下のL字より上にユラユラと固定されている
筋肉は1つ1つ分かれていますが、それをつつむ膜は頭の先から爪先まで一つながりで「閉じた系」です(Fig.5)。最後にリンクしている「アナトミートレイン」で、実際の人体から剖出した一つながりの膜+腱の写真が見られます。
Fig.6 一つながりの膜の道はいくつかあります
■ 変な構えと言われるが
さて、合気道の基本構えは実戦的でないし不自然だとよく言われてしまいます。基本の構えは訓練のためであり、これで戦うわけではないので不自然で当たり前ですが、いったい何を訓練しているのかなー?と疑問に思っていました。
■ 合目的的だと仮定すると
合気道の構えは、骨盤の傾きや膝、爪先の方向が、中国拳法やほかの格闘技と異なりますね。解剖学的にみると、上記の膜の走行の1つを、頭の先からつま先まで伸ばす格好です。人体でテンセグリティ構造が作られているのです。体全部を伸ばせばよいというものではなく、膜の走行から最もよい体勢があります。例えば膝をピンと伸ばすのは、攻撃力や俊敏性には欠けますが、膜を一体化するには必要です。膝を曲げると太ももとふくらはぎの膜が分離してしまいます。下肢を一本の棒にすることで床の力を頭の先まで伝えることができます。また内股を締めながら爪先を外向きにすることで、この走行の膜が最も伸びます。筋力や踏ん張りでなく、テンセグリティによってノビノビと体勢を保持し、強度を出すことができるでしょう。その感覚を学ぶ構えなのではないかと思います。
以前先生がおっしゃっていたのですが、型や構えは体内の感覚を習得するためのもので、いったんその感覚が分かればどんな格好をしても同じようにできる、とのことでした。合気道の初歩で、実践性を求めずにひたすら基本型と構えをするのは結局上達の近道だなあと思います。最終的にはお相撲さんみたいにブラブラ歩いてるように見えるけど全くぶれない、みたいになるといいなぁ。
ところで、この体の使い方は「より少ない力で強度を出す」だけではなく、反応の速さや動きの統合に もっと関係があるように思います。次回に続きます。