大阪合気道自主稽古会

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稽古記録165<上半期まとめ③>(2019/7/11)

2019/7/27 (土)

        <上半期まとめ その3>

1. 胸が広がるメカニズムと呼吸

 

3. 胸を開く 方法と目的

胸とは胸郭(詳しくはその中の胸腔)を指すとします。胸を開くとは胸腔容量を増やすことになります。その目的は後回しにして、はじめに合気道に適した胸腔の広げ方を検討します。

 

3-1. 肩を張らずに胸を開くメカニズム

胸を開くといっても、胸を張る動作は肩甲骨を下げて互いに寄せることで行います。肩甲骨が固定されると前回の正中キープができなくなるので、合気道的には都合の悪い胸の開き方です。では肩甲骨をフリーにしたまま胸腔を開く手段を考えます。

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 Fig.1  胸腔サイズに関わるシステム  A.胸郭: ①肋骨 ②肩甲骨  B.胸郭外: ③胸腔 ④横隔膜 ⑤腹腔 ⑥吸気圧  C. 肺

胸郭とそれ以外に分けて見ていきましょう。胸郭レベル(Fig.1 A)では、肋間(①)を緩め肺を膨らませやすくできます。胸腔外(B)では横隔膜を(④)下げて胸腔内圧(③)を下げ、吸気を引き起こして肺を膨らませます(C)。肺が広がると肩甲骨もつられて動きますがフリーなままですからコントロールしやすさは担保されます。このように胸郭に頼らずに横隔膜を下げるにはどうすればよいでしょうか。

 

3-2. 横隔膜を下げるメカニズム

もちろん胸腔容積を上げると横隔膜は押し下げられますが、今回はその逆の順序を目指しています(Fig.2 B,C)。胸腔容積を増す代わりに、腹腔内圧を下げて横隔膜を下に引っ張ることができます。腹腔は閉鎖腔ですから容積を増やすと内圧が下がりますね。腸を膨らませたりお腹を出したりです。後者の方が分かりやすく実践しやすいので事項で述べます。

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 Fig.2 A:強制的に吸気を送り込んだ時の順序 B:腹を出すことで横隔膜(②)が下がり胸腔内圧が下がる(③)。C:肺が膨らんで(⑤) 吸気を引き起こす(④)。

 

 

3-3. 吸気によらずお腹を出す

ふつうお腹を出そうと思うと、息を吸い込みます。今回はお腹を出すことで息を吸い込みたいのです。それはお腹の筋肉を使うと案外できます。喉のところで気道を閉じて、お腹を前にも膨らませようとしてみましょう。できると思います。腹の内側に筋肉があるからです。この筋肉の動かし方がピンとこなくても大丈夫です。誰にでもできる簡単な指導法はいくつか思いつきます。例えば不整脈の治療の際に迷走神経を刺激する手技の変法など。Valsalva法と言いますが、ただし深刻な不整脈を引き起こすおそれがあるので一般の方が自分で試すことはしないでください。ともあれ腹の筋肉は意識的に外側に動かすことはできます。お腹を膨らませてから、閉じていた喉を開くと空気が自然に胸に入ってきます。膨らんだ肺に押し上げられて胸郭は受動的に開きます。肩甲骨も肋骨もフリーのまま受動的にスライドします。布袋さんのようなお腹になりますが、胸は控えめながらのびのびした自然な開き方で、肩は楽にブラブラリラックスしています(Fig.3)。

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Fig.3  お腹はすごく出る。帯を締めていると出る幅が制限されそうだが、腹上部だけで調整するようになるので、きつい帯はかえって楽だと感じます。今までよりきつめに締めるようになりましたが、前より楽です。女性用の高い帯の位置では、一連の操作はできません。

 

腹壁内側の筋肉だけでなく腸管を膨らませるのもよいですが、これはややこしいのでまずは筋肉だと思っておいて良いでしょう。

(腸は脳と同等に賢い神経系臓器なので、ほんとうは解説としては外せないテーマです。腸の神経群は、中枢神経および、以前に合気道的神経として私的には否定的な結論となった自律神経系(「合気道と迷走神経」参照)とは別個の、独立した神経システムであり、合気道にはこの神経群が深く関与している可能性が高いと、今のところは考えます。合気道では「腹が大事」と言われるのも丸々スッキリと腑に落ちます。しかし専門的すぎて煩雑になってしまうし、逆に簡略化すると安易にオカルトと結び付けられそうな危うさがあるので、当面公開は予定していません。)

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 Fig.4 「私」(大脳) ←渉外・広報の平社員。 腹部神経叢 ←最高司令部(機密)

 

 

3-4. 腹式呼吸と混同しないほうがよいかも

 「腹式呼吸が体にいい」とは、なにかと耳にします。その真偽は文脈によるので私にはわかりません。しかしここでいうお腹出しを腹式呼吸と説明すると誤解を招きそうな気がします。一般に腹式呼吸と聞くとお腹で呼吸するのだというイメージがあるので、まず胸郭胸腔メカニズムを使って肺を膨らませることによってお腹を膨ませる、という順序でやってしまうことがありそうだからです。合気道的に役立つと思われるのは逆です。「①お腹ふくらまし→②胸郭広がる」です。②のあとに本当に穏やかに吸気が始まり、ほどほどのところで止まります。深呼吸するときの頑張った吸気とは、まったく心地よさが違います。この気持ちよさだけでも、合気道的胸広げは結構価値があります。楽しみとしてやってみてね。

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 Fig.5 カエルは横隔膜がないので口で空気を出し入れ。彼に対しては「胸を開け」の代わりに「頬っぺたを引っ込めろ」という説明になる。宇宙時代ですから、人種文化国籍出身銀河系を問わず、合気道するために。

 

それにしても、なぜここまでして胸を開かなきゃいけないのでしょうか? 次回は最終回「なぜ胸を開くのか」と、おまけの裏のテーマ「骨の道」です。おたのしみに。