大阪合気道自主稽古会

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稽古記録163<上半期まとめ①>(2019/7/11)

2019/7/25(木)

     <上半期まとめ その1>

1. 初心者が習得すべき主要4項目:「正中・芯・軸(回転)」&「胸を開く」

2.正中の実習

 

2週間前から突然「稽古では3つのことだけに注意して、ほかはできなくてもいいことにする」キャンペーン期間でした。その3項目は私のような新参者が合気道で身につけるべき最も基本的な動作です。なんとなく言語化できるようになったので4回シリーズで書きます。

 

正中→芯→軸→回転、および胸開き

 合気道で習得すべき技術は多く、混乱しがちです。幸い私が通う道場では注意ポイントが3-4項目に絞られています。先生が言及するキーワードの出現頻度およびそれらを教わる時期と合わせて優先順位をつけると、以下のようになります。:1.中心  2 軸(芯) ≒回転 3.胸開き  となります。これは後述するように理解の順序として理にかないます。しかし、キーワードの出現頻度が高いということは、「それだけ重要な項目である」だろう一方で、「生徒たちが言っても言ってもできていない」ことも示唆します。できていればそれ以上注意されることはないからです。なぜ私たちは言われてもできないのでしょうか。やっているつもりで出来ていないのはどこなのか。

そこで今回からこれらのキーワードをどの程度忠実に実行できているかに特化して1つずつ調査してみます。ただし項目同士は互いに重なっています (Fig.1)。

f:id:fanon36:20190725103307p:plainFig.1 お互いの特徴は重複・相補。

 ※合気道では精神性も重要視されますが、ここでの目的は「少なくとも、指導者に指示された身体操作を極限まで正確に実行する」という合気道初歩の実習です。そのため極端に言葉通りの理解に終始している即物性と浅薄さがあります。もっとハイレベルな本質についての持論展開は読者ご自身のサイトでお願いします。思想的なコメントは承認を控えることがあります。

 

1. 正中はどこか

「正中」から始めるのが分かりやすいと思います。自分の正中をまず調査しましょう。(もちろん合気道では「中心」が最重要ではありますが、大変難しいので触れません。また「相手の中心」は、自分の中心が分かった後の話なので触れません。)

「真ん中あたり」でなく「正中線」と言うからには幅の無い唯一のラインであるはずです。床に描いた直線上に立ち、姿見に垂線を引いたものを直線と直角に交わる位置に置くと便利です(Fig.2)。

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Fig.2 鏡上縁の中心に糸の端を貼り、錘を自然に垂らした状態で断端を鏡下縁に貼り付けます。

 

1-1. 現状把握 

正中に合わせて半身で立っているつもりで、実際にどれくらいずれているのか確認します。体は厚みがあるので、測定点を選びます。もし剣を構えているとすると、剣全長が正中ラインにあればよさそうです(Fig.3 A)。徒手の場合、手刀を正中に置いてもそれは剣先だけ正中にあるのと同じです(C)。剣の柄はもっと根元ですから肘、できれば肩峰まで正中に合わせたいところです(B)。 下半身は膝と趾が測定点でしょう。骨盤は正面向きであるため大腿骨頭は外側にはみ出るはずなので測定点としては使えません。これらの定点を鏡の糸上に持ってきます。そのあと、ほかの部分を一か所ずつ糸上に寄せていきます。そうするうちに定点がずれてきますから、時々立ち戻ってチェックします。

※じっさいに合気道するときはこんな構えはしません。横からの力に弱く不安定すぎです。これは正中線の体性感覚を知るための実験です。

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 Fig.3 B:肘から先が正中線上  C:手首から先が

 

1-2. 締める以上に締めて芯をつくる

上半身を捻ることなく正中に合わせようとすると、脇を限界よりももっと内に締めなければならず、これはきつい姿勢です。そういえば昔ある柔道家の先生に、脇をもっと締めなさいと言われたとき、胴体が邪魔でこれ以上無理だと答えると、「しんどいやろ?そこを頑張ってやっていけば、少しずつできんねん。内側に絞って絞って、しまいには糸のように自分を細くすんねん。」と仰いました。そんな無茶な…と思いましたが、今思うとあれは感覚のことでしょう。じっさいその先生は太っていましたが、紙の縁を翻して切るような技でした (Fig.4)。構えはゆったりしていて、技に入る瞬間に細くなりました。 技がおわるとまたデーンとしていました。メリハリですね。

f:id:fanon36:20190721215501p:plainFig.4人生最大のギュウギュウ

鏡の垂線に全身の正中を合わせていくと、自分がぎゅうぎゅうに真ん中に濃縮されます。さらに圧を上げてより正確な正中を目指すと、体の中に一本の糸が感じられます。濃度勾配が最高であるラインで、芯と言えるでしょう。このとき、体の厚みは変わらないのに自分が紙みたいに薄っぺらに感じます。この感じで人込みを歩くと、ぶつからずにペラリペラリと人を避けられてすごく面白いのです。やってみてください。

 

 

1-3. 思ってるより体は外側経由で動く

正中に身を締めて立ったら、手刀を振り上げてみます。剣の全長=肘から先 が正中を通過しながら振り上げられるようにします。しかし実際は肘の通り道が正中からかなり外に膨らんでいることに気づきます (Fig.5)。気を付けてゆっくり鏡の垂線に合わせてあげようとしても、外へ外へと行きたがるので、直線的に上げるには内側に力いっぱい引っ張りながらの感覚です。

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Fig.5 A:力学的に理想的な力の伝達は正中から発してターゲットに向かう。犬の前肢はこのように動く。B:発射地点から外回りでターゲットに向かうのは力のロス。霊長類の肩はこう。

 

これは私たちの肩の構造上、そうなるものです。とくに前腕が少しでも回内していると肩関節の伸展は回外を伴います。だから手刀は峰を真上にキープしておく必要があります。

このように、鏡の垂線と床の直線とを使って、手刀をただ真上にふり上げるつもりで実際にどこでどれほどブレているのか、立体的にチェックしましょう。肩甲骨が固定されていると、腕を挙上する際に肘を外に逃がさなければそれ以上あがらないポイントが必ず出てきます。よって肩甲骨を繊細にコントロールし、常に協調しながらでなければ真の直線運動にはならないことが分かります(Fig.6)。このことは、後述の「胸を開くとは」に関連します。

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 Fig.6 A:鎖骨と上腕骨頭の接触面が連続的に滑らかにスライドし続ける必要がある。B:スライドしないと、脇を開けることで90°地点を乗り越えようとしてしまう。C:角度によって締める筋肉が変わってくるので微調整しながら垂線を目指しましょう。自由すぎる肩関節は人類の進化を促したが合気道では落とし穴にもなるわけです。

 

 

1-4. 下半身中枢側も内側に締める

正中に合わせると言っても側面立ちになるわけではありません。骨盤はほぼ正面向きです(Fig.7 A)。背骨と胸骨はほぼ正中、鎖骨から前後方向に立ち上がりますから、手刀と逆の手は後ろに引きます。同様に後ろ足はフニャつかずに内腿を締めながら骨盤をキープします(B)。

脇を限界以上に締めようとすると、楽に帳尻をあわせようとして膝が内側に入ってしまいます(C)。膝はちゃんとつま先の上に来るように鏡の垂線で確認しましょう。お尻も飛び出ないように後ろ足にこそ気持ちを強く通しましょう。このように修正していくと、正中を厳密に通す姿勢はただ1つだけだと分かります。静止していますが、張りつめた弓のように、全方向から引き絞ってバランスしています。

 

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Fig.7よくあるエラー集。D:泥棒立ち(側面立ち) E:前腕前足だけに集中して後ろ半身がゆるゆる

 正中を一番に実習すると、のちの話が早くなる利点があります。なぜなら引き絞った弓の弦が放たれるように、正中絞りを解除すれば自然に体は開くからです。次のテーマの体開きが、楽にできます。

 

1-5. 芯だけ保存

中心に向かって圧を上げていくと芯が現れました。このときは見慣れない変な姿勢です(Fig.8 A)。ここから、芯の感覚が消えないように注意しながら、姿勢を普通にしていきます。骨盤をもっと正面向き方向に、二の腕を胴体から自然に浮かせ、地面に近く、後ろ足をしっかりして、前膝に乗る程度にわずか前傾。リラックスしてプラプラ動けます(B)。その状態でまだ芯はあるかどうか、ナチュラルに一歩踏み出せるか、確認します。

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 Fig.8 B普段の構えだが芯の感覚は姿勢A並みに保たれている。

 

これで芯を何となく感じることができました。次回は「芯から軸、回転」です。おたのしみに。