大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

深夜回診11

  (続き)  前回「深夜回診10

            ホラー思考実験

「医療サービスの現場で、責任を回避しつつ利用者のニーズに合わせるとどうなるか?」をホラー作家が思考実験してみます。

( ※ ホラー作家だから最悪のシナリオを想定します。) 

 

 ”…病院の機能や医者の能力を数値化しないのは国の怠慢でした。幸い近年こんなふうに急激にカイゼンされてきました…。”      

                                 f:id:fanon36:20180727194057p:plain plague doctor            

”誰だって丸腰の間抜けな田舎医者より、専門的な資格を持つ名医にかかりたいですよね。それを受けて医学界では、各種専門医、感染コントロール医、緩和ケア登録医、治験医、臨床研究員、カテーテル指導医… など、しばしば役割が重複する同じような資格が、各学会や施設団体からたくさん作られました。これらの試験や講習、資格更新のたびにお金が動きます。

資格取得は任意ではありますが、経営側としては雇っている医者に資格があると加算や補助金というお金がもらえます。専門医療機関とか指定病院とかを標榜すると患者も増えます。やはり医者にはたくさん資格を持つように圧力をかけるべきでしょう。

担当省庁は、講習会や専門資格を量産し、とらせるように指導します。利用者からクレームがくると、さらにそれについての義務と資格を病院に課し、国民にちゃんと対応していることを示します。

 そうして、現場は資格取得や更新のポイントを稼ぎ、「出席証明書」をかき集めるために、カレンダーに予定を詰め込む。平日の夜も週末もパズルのように組み合わせてあちこちに奔走する。

 

細分化しすぎて意義不明の学会が増え続けています。学会を存続させるには学術集会を開催しなければならず、集会を開くためには研究発表が必要になる。(…本当は逆ですね。研究したいから学会があり、発表したいから学術集会を開催するはずです。社会の成立後年数が経って組織年齢が高齢化すると、こういう逆転現象はよくあります。)同様に、ノルマ達成のための研究と論文書きで深夜まで居残り。書いた端から次の締め切り…。

 勤務時間中にも参加者全員が無駄と分かっている会議・講演会・勉強会がありますよ。だれも必要としていないなら廃止にすればいいのですが、これに出席することは集団への忠誠心と従順さを試す踏み絵です。ぶつくさ言いながら真面目に出席してし続ける医者たちすら、一見被害者のようですが、「自分も我慢して出席してるのに 他の人が抜けるのは許せない」とばかりに相互監視に余念がありません。長年 引き継がれて誰もやめられないうえ、問題が起きるごとに委員会を作るので、増える一方。

 

 こんなふうに追い立てられては、「これはまずい事態になっているぞ?」と冷静になる暇もありません。洗脳の常套手段です。そういう現場で、最も重要度が下がるのは患者のお相手です。患者の話が長引きそうになると困ります。気分を害させず いかに無駄話を打ち切るか。医療的な問題であっても自分の専門外に及ぶや否や、いかにうまく他科か他院へ退場してもらうかを算段し始める。『だって今日はあれもこれもしなけりゃ。書類は山積みだし。とにかく眠い…。』

その国の医者はどこよりも私生活を犠牲にして働いているのに、その国の患者はどこよりも不満度が高い。当たり前!

  結局、被害を被るのは現場要員を含めた国民全員です。誰も得をしていない。なのに、負のスパイラルは加速していて、負債は年々雪だるま式にかさ高くなって崩れ落ちそうです。患者の安心はますます遠のきます。もはや、お互い何を求めていたのかも思い出せない。いい関係ってなんだったっけ?……”

 

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 さて2018年日本で、あなたは、雑誌のランキング上位の病院にかかっている。国立で、XX基幹病院で、様々な指定病院を標榜している。 

いくつかの専門医資格を持つ主治医は、訪室するたびあなたのそばに座って興味深げにあなたの人生の話に耳を傾けましたか。あなたは今は情けない病人だが、今まで何十年間も どんなに社会の役にたつ仕事をしてきたか、どんなに家族や友人を大切にしてきたか、どんなに恵まれない境遇を切り抜けてきたか、病気のおかげで失った宝物のような趣味のこと、あなたの主治医は知っていますか。

そんな行為は医者にとって点数にも加算にもならないのに。

 

この思考実験が現実に侵食するとしたら、これを断ち切ることができそうな要素は、私たちのどこを探しても絶望的です。数年前から私は、時々そんな幻想を、病院の非常階段でさぼりながら茫然と眺めていました。

 

さぁそこで行動実験開始です。もはや失うものはないのだから。その実験とは??

 

     ≪続く≫

 

 ※注:あくまで善意と熱意をもって新たな試みを開催する人達は実際に多くいます。この世は多層的だということです。