2019/61/20 (木) 19:00-20:00 住吉道場 吉田先生
1. 表は圧に強く裏は引っ張りに強い
2. 前後に動けなければ剪断 (垂直方向)
「手のひら側(腹側・裏側)は力が出る方で、手の甲側(背側・表側)は入る方である」というルールがあると仮定して、力の使い方に役立てるという日です。
1.手刀両手持三教
一教返し技のように両手で持たせます(Fig.1 A)。手の甲側で貰うとそのまま自分の頭上を通して三教に持っていきます(B, C)。手刀を、物を拾うように下げて受がついてくるやり方でも同様に三教にできます(D)。
Fig.1 上げると下げる、相手の力の貰い方が異なることを感じます。
2. 手刀両手持前受身
受はしっかり持って相手の力の変化を感じます。取は転換してそれを貰い、受がうまい具合に引き寄せられてきたら前受身など。
Fig.2 引っ張ってるようにみえますが、相手の力を感じながら貰っているやり方
以前 手の甲を上にして指を相手に向けると引く力に抵抗力が強い(稽古記録141-1参照)をしました。その時は理由不明と書きましたが、一連のルールには沿います。
3. 仮定の効用
Fig.2 A:くっつき&引き寄せ B: 貰って巻き込み C: 畳の物を拾いに行く
「手のひら側(腹側・裏側)は力が出る方で、手の甲側(背側・表側)は入る方である」という仮定は、そのような現象が実在するかどうかは論点ではなく、合気道の理解と応用に役立つかどうかという観点から妥当性を見ます。虚数があると仮定すると電磁気の計算ができて便利、というのと似ています。このとき虚数が実在するかどうかは意味がありません。
もともとは体の表の筋肉(正確にはその支配神経群)と裏の筋肉は、反応に少し個性があるということに気づいた人たちが考えたのでしょう。もともと伸筋群v.s.屈筋群という簡単な分類はありますが、これはいかにも大雑把すぎます。わずかな力を作用させるときだけに初めて明らかになる微妙な両者の性質の差なのかもしれません。
4. 異なる材質の配置:筋肉
Fig.4 A: 圧縮力 B: 引張力 C: 剪断力
エネルギーの入出は図に描きにくいので、あえて極端に単純化して、伸筋側=入る=圧縮力に強く引張力に弱い、屈筋側=出る=引張力に強く圧縮力に弱いとします。
コンクリート=圧縮力につよいが引っ張りに弱いので、逆の性質を持つ鉄と組み合わせて鉄筋コンクリートにします(Fig.5 左)。ガラスもコンクリートと同じ性質ですから、外から物がぶつかって割れる時は引っ張られる内側(A ⇨)から割れます。よって強化ガラスは内側を補強します(B)。
Fig.5 強さには種類がある。
人体に表裏はありませんが(背側腹側という)、動物と同じとすると四つん這いになったときに外に向くのが表です。外からの脅威(Fig.6 AB)に対する鎧としての表が圧縮力に強く、コンビネーションとしての裏が引張力に強いという構造は、強化ガラスと同様に材料力学的に理にかなっています。
Fig.6 A:ハイイロオオカミは灰色な部分が表。C: シロナガスクジラは日焼けしている部分が表 D:ドラは青ざめた部分 E: アルマジロと亀は鎧・甲羅が表表で、ぶつかりに強い。
5. 筋肉以外
筋肉同士で比べると以上のようになります。その差は僅かですから繊細な感覚と操作を要します。しかし体全体から見ると筋肉は引張力に優れる臓器です。圧縮力に強いのは骨と歯でしょう。相手を押す力(出す力)は骨経由であれば頑張る必要がありません。いわゆる「折れない手」は関節が必ずしもまっすぐではありませんが固定されていれば圧縮力は骨で支えられます。筋肉は相手に対してでなく、自分の骨格を整え固める為に使われます。バレエダンサーのように。受としてその体から感じる力は静的で硬性です。
Fig.7 受「?なんだかなじみのない力に押さえられている」と感じます。
とはいえ、骨で直線的に来る力は微調整がつきにくいかもしれません。例えばただ力任せにの技は、それで切れたとき断面がぐちゃぐちゃになりそうに感じますが、よい技をかけられるとその力は線であり断面はスパッときれいになるように感じます。さらに線というより点のこともあります。そのような精微さは、別なのでしょう。上記の筋肉とか、もっと引張力のつよい皮膚組織だとか。
6. 屈筋側は「出す」からこそ「押さえちゃう」
はじめ屈筋側が「出す」ほうだから、垂直からのくっつきと引きに弱いという意味が分かりませんでしたが、要はホースなので水を止めるには流れの水平方向をふさぐ(Fig.8 D)より、垂直方向を少し押さえる(E)方が楽なんでしょう。前腕内側をほんの少し押して弱らせるのも垂直です(A)。指を相手に向けるように手を張ると(B) 相手の引っ張りに堪えやすいのは、屈筋が最大に伸ばされた状態(収縮のエネルギーが最大)だからとも説明できますが、同じ持たれ方でも相手に手首の筋をちょっと押されるとフニャと弱くなってしまう(C)のはホースを垂直に押す作用としたほうがすっきりと説明できます。
Fig.8 真上からだとカエルでも簡単に水圧を止められる
圧縮力と引張力とくれば、あとは剪断力(ねじり応力) (Fig.4 C) は?という話になります。剪断力は合気道では主に2点(両手)で動かす時の偶力 (稽古記録128-4参照)などにあたると思います。しかし接触が1か所であっても手のひらを「面」として使えば作用点は2点以上になります。というわけで最後に剪断力をつかった呼吸法が出てきます。
3. 座り呼吸法返し返し
両手を下から持たれることがあります。受は堪えやすいし、取は浮かされやすいという不利な状況です(Fig.9 A)。そんなときはまともにやっても動けないので、剪断力≒ねじれ応力が弱い手関節(母指球。腕相撲で攻めるところ)を狙います(B)。受の親指を伸展させる方向ですが、小手先でやらずに胸から開いて受の手関節から回外させます。
Fig.9 手の甲側をペッタリやられるとそれ以上は入りにくいです。