ピンク色のようなクリーム色のような、三階建てのコンクリートが木々に隠れている。一階は葉っぱに遮られて路地からは見えないが、二階と三階の手すりには洗濯物や布団が干されている。
学校かひけたあと、ちえこと遊びに行くときはお互いに どこに行く?と一応相談らしきやりとりをしては答えのないままブラブラするのだが、そんな時にまるでちゃんと目的があるかのようにこの建物を見廻りに来るのだ。
夏の濃い葉に半分埋もれ、静かに立っている建物は、周囲の空き家同様ぽっかりした感じを漂わせている。それなのに、新しい洗濯物が干されているのがちぐはぐで不思議だった。人が住んでいるのだ。
ここでじっと待っていたら、誰かが扉を開けて出てきたり、また仕事場から帰ってきたりするのが見えるんだろうか。今まで一度も住人を見たことがない町の七不思議。
と、そんな話をしていたと思うが。北塔は大人になって久しぶりにこの路地を通った。まだ建物が、壁がはげながら人を住まわせているのに驚き、驚いた拍子に子供時代を思い出した。
あのころは不思議だ。子供同士なのにお喋りが楽しかった。40年経ち、今では異業種交流など習慣や価値観が異なる人と接することが楽しい。
一方子供の頃は、ちえこと自分はお互い経験も頭の中身もほぼ同じだったはずだ。まだ数年分しかない人生の記憶は同じ教室と同じ帰り道、似たり寄ったりの家庭と30分だけ許されたテレビでできていた。何をあんなに喋ることがあるのだろう。楽しくて仕方なかったのは覚えているし、月曜日から日曜日まで話すことは尽きなかった。何を話してたろう?
見ず聴かず考えずだったですよ あんたたちは。見てるようで、目に映ったものの名前をただ口にしてた。看板に知ってる文字があれば意味もとらえずに音読してた。公園の遊具がたてる物音を聞けば、きーきーきーきー言うてるね とそのまま言ってた。えらく見せようとか、相手がどう思うかとかは無く、バカみたいだったよ おっさん。
と、クリーム色の建物は思った。