大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

稽古記録183(2019/9/8)

2019/9/8 (日) 17:30-20:00 滋賀県立武道館

                   <まとめ >

 1. 脇締めはステイタス

 2. 呼吸はダイナミズム

 

重心を落とすと居着いてしまう。それを防ぐ脚の使い方を一カ月前に知って、毎日の練習に組み込んでいます(稽古記録172参照)。そのテキスト(頁末)の著者 高橋先生(びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ情報戦略コース教授) の講習に行ってきました。例によって想定外の収穫がありました。それが最近私のフラストレーションの元だった「脇を締めるには?」だったのです。

  

1.一体化:脇~腰間の力の流れという観点から

下半身の力が強くなるほど、上体や腕だけが置いてけぼりになりやすいので、これらを一体化させることが大切になります。一体化には①脇を締める ②骨盤の位置 がメインです。

 

1-1. 脇 (side trunk)を締める

 私はどの武道をするにも脇が緩んでしまう悩みがありました。気をつけているつもりなのに「脇が開いている」としばしば指摘されます。どうしたらいいのか途方に暮れていました。今日、自分が「脇とはどこか?」を勘違いしていたことが判明しました。

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 Fig.1 何をしても脇があいちゃう

 

1-2. 「脇」の解剖学的部位=胴体側部

講習で脇を締める実習を行いました。体の両側で、立位で手を向かい合わせにして曲げた肘をできるだけ落とそうとします(Fig.2 A)。どんどん落とそうとすると、胴体の両側が締まってくる感覚が分かります。その「腋窩から腸骨棘を結んだライン(side trunk)」が「脇」です (B斜線部分)。脇を締めるとは、side trunkを収縮させることです。もともと「脇」は腕の内側から側胸部まで広い範囲を表す単語ですからほとんどの人は正しく理解していると思いますが、私は腋窩や上腕内側をイメージしてしまっていた気がします。

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 Fig.2 体幹側面から後ろは肩甲骨の下ラインくらいまでのかんじ

 

 

1-3. 「脇」を締めたまま、いろんな姿勢になる

この感覚を保持したまま、上肢を動かす練習をします。肘を伸ばして両腕をハの字にします(Fig.3)。side trunkの感覚が消えないようにゆっくり集中しながらやります。これが出来たら腕を上げたり、いろいろな姿勢をしてみましょう。それでもside trunk収縮の感覚が消えないように集中して。

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 Fig.3 指先で地面を触るイメージで。

 

構えの姿勢では、上腕を体幹に強く引きつけるとside trunkは割と簡単にに締まります。しかし「脇=上腕や脇の下」と誤解すると、構えの姿勢から動いたとたん緩んでしまうことになります。「脇=side trunk」なら、姿勢にかかわらず脇を締められます(Fig.4 a)。体を整えるとか、まとめる、という状態です。以前、柔術の先生が腕を上げて「脇を締めながら…」と説明されたとき、私は「え?脇めっちゃ開いてるよ?!」と混乱しましたが、今日意味が解りました。先生は脇(side trunk)を締めたまま腕を上げていたのでしょう。 

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 Fig.4 T字状を固定するとき、I部分を支える(b)より、-部分両端を固定(a)する方ががっちり固定されます。aがside trunk。

 

1-4. side trunkを意識するための補助グッズ 

私は、剣を下に払う動作は側胸部〜背中を使うと楽(Fig.5 A,B) だと気づいていたにもかかわらず、徒手技の最中に「あ、脇締めなきゃ!」と慌てると、胴体を締めるのではなく上腕をキュと寄せてしまっていました。剣を持つとside trunkが締まる感覚を思い出せます。剣でなくても短刀や扇子など棒状の物を手に持つと、side trunkを意識して徒手技を練習しやすいです。

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 Fig.5 A,B:剣を持つとside trunkを意識しやすい。C,D:マラカスや扇子でも。

 

1-5. side trunkを意識するための姿勢

だからといって、いつまでも物を手に持っていては合気道の型が練習できません。そこで次に、体の一部を意識することでside trunkを使うコツを教えてもらいました。例えば頸を真っすぐ伸ばすとside trunkも締まります。体勢によって変わるside trunkそのものは技の中では意識し続けづらいですが、一般的に意識しやすい部位である頸を伸ばすように気を付けるのも一助です。

 

1-6. 骨盤とside trunkのワンセット

Fig.4のT字をみると明確なように、体の両側を補強するside trunkを支えるのは骨盤です。骨盤の角度が良くないと、せっかくside trunkを締めても効果薄です。腰のことはさんざんやったので繰り返しませんが、とにかく骨盤の角度を整えて、骨盤とside trunkで体幹をしっかり締め上げることが大切です。締めて体幹が収縮すると、頭の位置は下がり、足の裏は浮き気味になります。これは後述のスピン・低い重心でつかう大切なイメージです。

 

 

 

2. 収縮拡張の呼吸リズム
2-1.沈むのは沈んでいるのではない

ゴルフとバッティングのスイングの実習もありました。どちらも頭の位置が「上がって・下がって・上がる」という上下運動を含めるとスイングの威力が増します(Fig.6)。さてここで大切なのは「上がるのは浮いているわけではない。下がるのは下がっているわけではない」ということです。

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  Fig.6 いったん重心を下げてから伸びあがっているように見えるが…

 

2-2.収縮する体

中心に向かって収縮する物体の上縁は下がり、下縁は上がります。拡張では逆です。人体の収縮拡張の基本的な原動は、収縮はside trunkを締めた状態における呼気相(稽古記録182参照)、拡張は収縮解除による受動運動です。その収縮拡張が、まるで物体が上がったり下がったりに見える(Fig.7)。武道やスポーツでは実際に飛び上がったりしゃがんだりすることもありますが、これと「収縮拡張」による見かけの上下運動とを混同しないようにします。低くなる、重心を落とす、というのが「自分の中心に向かって収縮している」場合があるのです。床に自分を落としているのではないので、むしろ足は軽く動きます。これが上向きの運動を行う前の「いったん沈む(ように見える)」というやつです。

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 Fig.7 Bは中心に向かって縮んでいる。aだけ下に、bだけ上に辺縁が移動するが落ちても浮いてもいない。

 

2-3. 使い方の例:物を横に押す

体の前に置いた物を横に動かそうというとき、後ろ足を踏ん張って前のめりになるのが普通です(Fig.8 A)。しかし収縮拡張を使うなら、正中は不動なので後ろ足が出ることも上半身がのめることもないはずです。実際に、正中を真っすぐのまま、上記のようにside trunkと腰を整えてただ軽く押す方が、物は遠くまで移動します。この押し方をしてもらうと、すごい力を受けたように感じます。根こそぎ持っていかれるようで踏ん張れないのです(B)。ということは上向きに持ち上げる力を加えられているのでしょうか?

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 Fig.8 動きの乏しいBの方が衝撃を与えられる しかも上向きの。

 

2-4.上向きの力は床から得るのではない。

踏ん張っている人を動かしたいとき、持ち上げると動かせます。だからといって踵で蹴る力によって相手を上に持ち上げながら押すと体は前のめります(Fig.8 A)。体を真っすぐしたまま相手に上向きの力を与えるケースでは、その力は収縮後の拡張によるのではないでしょうか(B,C)。

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 Fig.8 B,C: 小さく小さくギューッとなってから急に開放すると、足の力を使わずにポンッと跳ね上がる。

 

2-5. 拡張する体:縦⇔横の力のコンバーター

空手の先生が時々やるのですが、サンドバッグを軽く水平に殴ると、サンドバッグがその場で縦揺れを起こして、たわんだ吊り鎖がガシャガシャ鳴ります(Fig.9 A)。横に殴ったのに縦にエネルギーが伝わるのはとても不思議でした。今日の「横に押す」実習で、真横に押されたのに足が浮いたようになるのと似ています(B)。前回この空手道場で「呼吸のリズム」をやりましたが(稽古記録182-2参照)、それが今日の収縮拡張と共通点が多いのです。

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Fig.9 black box:力の方向を横から縦に変換する謎装置。

 

2-6. 収縮拡張のリズムが呼吸

縮まったあと一気に開放する拡張の力は、ボールを撃ったりパンチをしたり高く跳んだりと、瞬間的な大きな力です。その一見上下運動に思える体の収縮拡張は、実際の動きの中ではほとんど見えません。高橋先生は「実習では分かりやすく大げさにやっていますが、実際は体の中だけで行います。」と説明し実演してくれました。なるほど、見えません。本人(と作用対象が人間ならその人)しか分からない技でしょう。これは武道や球技だけでなく、スピードスケートのスターティングなど様々な分野で役立つ身体操作なのだそうです。

合気道でいう「呼吸力」はこの収縮拡張の爆発的な力ではないでしょうか。また、呼吸というからには繰り返すリズムです。前回空手で学んだ「吸気呼気によるリズム」を私はまだスーハ―スーハ―して大げさに練習していますが、これをもっと静かにしていけば、目に見えない収縮拡張のリズムになるのかな、と期待しています。

合気道でも柔術でも空手でも、いったん逆方向のベクトルを加えてから目的のベクトルへ転換することをします。下に下げる前にちょっと上、上げる前にちょっと下、などです。しかしこれも、単回のイベントではなく「収縮・拡張・収縮・拡張…」のリズムの一端だろうと思い当たります。「さて、今から技をしたいからちょっと上に。」ではなく、常にこのリズムがあって、それに乗って技を出すというのが理想でしょう。

 

 

3. 一体化状態と呼吸リズムとの融合

脇を締めて骨盤を立てて一体化することは、常から必要な「状態」です。この状態にあれば、手を出せば突き、回れば転換、となんでも技になりえます。技をする前に改めてセットするのではなく ずっとこの状態でいることが、結果的に技を作ります。「脇を締めなきゃ」ということを一時的な「行為」だととらえると、度々忘れてしまって、私はなかなか身につかなかったのかもしれません。side trunkを締めた「状態」を日ごろから当たり前のニュートラル姿勢にまで作り上げておくことが早道かと思い至り、今も日常生活で実行しています。

一方、呼吸=収縮拡張のリズムはパワーの原動を作る「行為」です。吸ったら吐くしかないし、吐いたら吸うしかないです。時に大きくときには静止して、終わりなくずっと続きます。

 

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 Fig.10 ➡:状態(=一体化),  ⇒:アクション(=呼吸)

 

私が反省するのは、”合気道の練習計画を立てる際には、「状態」と「行為」を分けて考えることが効率的だったのではないだろうか?” という点です。それぞれ練習のスタイルが異なるからです。そうして、「side trunkと腰で一体化した体」という通奏低音に、「呼吸のリズム」をダイナミックに乗せていく。これが多くのスポーツ・武道の基本ではないかと思います(Fig.10)。

 とはいえ、これらの操作は精妙なので、理屈だけでなく実際によく練習しなければならないでしょう。地味すぎて道場ではできない自主練が将来を分けるぞ!

 

おまけ:スポーツを多いに参考にしよう

スポーツ科学の発展には目を見張るものがありますね。残念ながら武道家が「スポーツ」を侮蔑語として使うのをたまに耳にしますが、実際に命のやり取りをしていた明治以前ならともかく現代では武道では死にません。そうである限り、記録更新にしのぎを削って日夜研鑽するプロスポーツ選手は、現代日本においてはもはや誰よりも研ぎ澄まされている存在かもしれません。武道を卑下するわけではありませんが、日々進化しているスポーツ分野は我々が学ぶべきことが膨大に蔵されている。短い人生で効率よく武道を学びたければ、スポーツ分野は無視するにはあまりに勿体ない資源です。

 

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Fig.11 「もう二度と『脇開いてる』って言われないぞ!HA HA HA HA!!!」もしまた言われたら、爆発消滅する

 

 

 

 

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