大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

稽古記録101 (2019/4/19)

2019/4/19 (金) 18:20-20:30  吹田道場 吉田先生

                   <まとめ >

1. 意識によって先に入る

2. 諦めておいしく食べる

3.バグる時間を知るための反復練習

 

「諦&受入れ&ごちそうさま」。分からないことを分からないまま置いておく日です。

 

 1. 繋がる復習: 胸取二教前受身

前回にやった技で、繋がりを確認します(稽古記録100,1参照)。シンプルにするために回転は控え、足さばきは体を開く程度に留めます。

 

2.繋がって釘付け:中段突入身投
突きも胸取と同様に捌きますが、胸取より力強く打ってくるため より落とされます。私は畳に吸い込まれるように感じました(Fig.1 B)。座ってしまった方が楽なくらい居着いてしまうので、適当に入身投げします。

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 Fig.1 膝から下が落ちる

 

3. 入って結ぶ又は結んで入る:突小手返

一見、外側に躱しながら突きを手で払っているように見えますが、それだと後が続きません。どうやらむしろ受の真ん中を狙って入っているようです(Fig.2 A)。練習した感じでは、十字受にみえる捌きは、手が喉元に入った結果です。そうしてからだと突きを払いのけるのではなく一体化できます。結ぶのと入るのはどちらが先かわかりません。むしろ両者は同じことかもしれません。

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 Fig.2 突きを取りにいかない。

 

4. 意識で入ってから結ぶ:両手襟持合気下・座り呼吸法

今週の座り呼吸法です(稽古記録96.3、100, 3参照) 。仮説を挙げても今ひとつしっくりこないので、いったん理解は諦めます。合気道では不可解な感触に出会うことが時々あります。そういうときレシピを考えずにただ食いましょう。おもしろい感触を味わって、『こういうことがあるのだなぁ…』と腹に落ちたら十分です。信じるより知る方が脳回路更新のインパクトがあるからです。

f:id:fanon36:20190420080701p:plain Fig.3  素材不明でも美味しければ良し

 

5-1.不動その①: バグるタイミング

私達が稽古している「先に入る」は、スピードの話ではないと言われます。ただ速く仕掛けても受は対処できてしまいます。先生が「先に入る」とき、受は思う存分打てません。アクセルを踏みながら急ブレーキを踏んだような動きになります。何が起こっているのか類推します。

脳内で、「ある行為を行う」という「キャンセル不能の最終決定信号」が発せられ(時間a)てから それが受の顕在意識に自覚を与える(時間b)までと、更に筋肉収縮が始まる(時間c)までにはタイムラグがあります("a〜b">"a〜c"とは限らない)。受の「打つ」という行為について、時間a以前に取がとったアクションには受は対応できます。時間aからbの間は「打ち」モードに入っていますが、心はまだ自分の決断に気づいていない状態です。ここで取が予測外の行動をとったとき、「打つ行為はキャンセルできないが、不測の事態が生じたため強制停止したい」という、2つの指令内容がバッティングした状態なので受は一定の時間アクションがフリーズしてしまうのかもしれません。この時間a~bは人間の命令系統が「バグるタイミング」と呼びましょう。

 

それではバグるタイミングはどうやってわかるでしょうか。空手家M氏が「時間a」を察知するための練習法を考案しました。剣のかわりに厚紙を丸めて先端にテープをまいて安全にしたものを使います(Fig.4 A)。痛みを伴う練習ではリラックスできず、相手の反応に鈍感になるからです。相手があなたの手首を紙の剣で打ってきます。ノーモーションで手首のスナップだけでパシンとやります。大変速いので、動きを見てから入身をしては間に合いません(B)。あなたは彼の手元ではなく全体を見て、さらに注意を視覚以外の感覚にも分散させ、彼のモードの微妙な変化情報を大量に自分の無意識に取り込みます。目的を持った思考は情報入力スピード・量ともに激減させるので、「察知してやるぞ」と考えてはいけません。そうして何度もやっていると、どこかの時点で相手のパターンを自分の無意識が分析して、相手の「時間a」直後に入身できます(C)。逆に、意識でもって騙し討ち的に入身しようとしても それは「時間a」以前になってしまい、受は冷静に打つ方向を変えてくるだけです。この過程はオカルトではなく ひよこの選別のような職人芸の部類ですから、反復練習しましょう。

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 Fig.4 顕在意識が認識できる範囲は異様に狭いので、無意識は顕在意識を無視して世界に対処しているが、無意識が「単純な情報しか分からない鈍い顕在意識」にも理解できる形に情報を翻訳してコミュニケートすることがあります。人によっては時間aが「ライトが点灯する」とか「数秒後の動きの軌跡がみえる」などに翻訳されるようです(D)。それを神聖視する集団もいますが、超能力ではなく大量の修練による学習です。señal traducida =翻訳された信号

 

5-2. 不動その②:バグる入力

しかし、両手持した状態で「今から上に上げますよ」と予告されても、「先に入る」をされると受は対応できません。タイミングだけではこの場合の説明はつきません。先生や先輩がこういうことをするときの手の感触はなんだか奇妙です。

大脳が受け取る情報(言葉)と、下位の脳が受け取る情報(手の感触や相手の見た目)が真逆の場合、下位の脳の判断が優先される傾向があります。優しげなセリフを言っても、表情や声音に攻撃性がある人は警戒されるものです。その逆に言葉で「さあ あなたの手を上に上げますよ」と言っても、接触した感じや表情が全くやる気がなさそうであれば、手を上げられないように準備することは困難かもしれません。このように矛盾する判断に導く情報入力を「バグる入力」と呼びます。

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 Fig.5 取「上げますよ」 受上位脳「来るよ!」受下位脳「いや ないでしょ」

しかしこれでも、手だけでなく体まで浮くこと(下記Fig.7C)の説明はつかないのです。

 

5. 意識で入る: 合気下げ

受が出した拳に手のひらを置いて、受を膝から落とします。よくある「中心(重心点)を攻める」は、受の股関節をロックしつつ両足に均等に力がかからせて床に貼り付けるという純粋に物理的なやり方です。しかし今回の「入る」やり方では、受がどんなに斜めっていても その体勢のまま落とされます。原理は分かりませんがこれが物理的と意識的との 違いでしょう。このように純粋に物理的な解釈で限界がある場合、生理学的な関与が考えられます。今後の課題です。

f:id:fanon36:20190420073918p:plain Fig.6 (稽古記録31, Fig.5再掲)

 

6-1. 意識で入る:合気上げ

両手持で上げる時、力でやると上がらない(Fig7 A)、力をうまく使うと受の腕が上がる(B)、意識をつかうと受の体が浮く(C)、と明白な違いがあります。今何をしているのか自覚しながら練習すると、できない事に対するフラストレーションは減るでしょう。「いま私はBができている、でもCには至らない。なにが問題なのか?」など。

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 Fig.7 上げるシリーズで 合気道的目標はC

 

6-2. 意識で入る:合気下げ

体軸の回転や体の波動を使って、効率よく相手に力を伝えることを、最近は練習してきました。これは物理学的なものです。それに「意識で入る」を加えるとどうなるでしょうか。実際に大きく体幹を動かさず、そのかわりに「まるで自分が回転やうねり動作をした」気分になっても、同じような効率よい力の伝達ができるようです。今日の稽古では、片手持の状態で 心の中で「上に上がった、下に下がった」気分になって、実際にはほとんど手を動かさずに受を下におとす合気下げをやりました(Fig.8) 。以前から先生たちの手を取った瞬間に崩されることがあるのが不思議でしたが、こんな感じかもしれません。

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 Fig.8 ビビットに行為を想像できないときは声に出して言ってしまうとよい。