大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

稽古記録62 (2018/11/15) ハバナ、キュ―バ

2018/11/15 (Habana, Cuba)

合気道は人によって全然違います。それぞれが自分こそ正統と信じていることも多いですね。私は何が何やらわかりません。実際に2世代くらい前の合気道はどんなふうだったのか、私はじかに見てみたいと思いました。どこか隔絶されたエリアに、昔のやり方が残っていないでしょうか??例えば、キュ―バは最近まで外国とのやりとりにかなり制限があったので、60年前の合気道が保存されているかもしれません。逆にガラパゴス的な独自進化を遂げていても、それはそれで面白い。近年米国との交渉が再開したので急速になにかと世界平均に近づいてしまう怖れがあり、早急に「原始合気道さがし」をしておかなければなりませんね。そういう理由でキュ―バへ行きました。結果的に、ものすごく程度の高い合気道がハバナで行われていることが判明しましたよ。今回はその内容を紹介します。先生はキュ―バ合気道協会副会長

 Carlos F. Cepeda Jardines先生; Asociación Cubana de Akido , Habana道場 (住所は記事の最後にあり)

 

■ 概要

基本的な技をファーストコンタクトで決めるシンプルなスタイルです。転換は多くても2回までで相手の中心を取ります。

 

■ 入身(先を取る)

興味深いのは「入身」という言葉を足捌き・体捌きでなく「先を制する」意味で使っている様子だったことです。スペイン語だったので説明の内容はよくわかりませんでしたが、取が受の後ろに回り込まずに、真正面に入ろうとする動きだけによって受がのけぞる形になったことを指して「入身」と仰っていたので、そう判断しました (Fig. A)。さらに「腹で入るのだ」とはっきり仰っていました。良い入身ですね。

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  Fig.A 腹から入るだけで受を一瞬止める。

 

■ 基本的な体の使い方を分析的に。

f:id:fanon36:20181217111422p:plain Fig.2 

いわゆる「折れない手」(Fig.2 A)と「重いからだ」(B) をお互いに練習する時間がありました。どういうイメージで練習するかという説明はよくわかりませんでしたが、皆よくできていました。また舟漕ぎ運動のような「リラックス+自然落下の手」で相手の腕を下におろす稽古もありました(Fig.3)。四肢を末端とつなげる稽古ですね。その他は片手持ちで結んでから。相手の中心をとって下に沈める(Fig.4)など、基礎となる体の使い方を一つ一つ分解して行っていました。このために門人たちはもれなくこれらをきちんと体得していたのでしょう。これだけ丁寧にやる稽古も珍しいものです。

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  Fig.3 力強く切り下すよりもリラックスしたほうが相手が崩れる

f:id:fanon36:20181222070044p:plain Fig.4

 

 

■ 横の力を縦に。

向かい合って相手が押してくる力を上下に逃がす練習(Fig.5)。

f:id:fanon36:20181217114927p:plain Fig.5 横の力を縦に

 

 ■ 多人数掛け

最後に多人数でかかっていくのを捌いていく練習。小柄な女の子も滑らかに反応していました。慣れているようです。

 

< まとめ >

ハバナ道場は毎日夜7時から2時間ほどです。1990年代から今まで、合気会の日本人師範が延べ4回来られたそうです。それだけにもかかわらず、基本的で丁寧な技と、理論的な体の使い方が維持されているのは驚きでした。

稽古代は1人当たり1カ月100円程度です。キュ―バの平均月収は2~3,000円円なのでこれくらいでければお稽古に来られませんね。先生は合気道教室ではお金が入らないため、昼間に他の仕事をして生活費を作っています。大変ではありますが、競合がなく生活のためでないことが、技のオリジナル化や「門人を感心させるための見せ技」化を防いでいる可能性があります。また、極端に合気道情報リソースが少ないことも、4人の日本人の先生の技だけに絞って丁寧に追及し続けられる原因と考えます。Cepeda先生はもともと柔道と空手の有段者でした。それらと比べて合気道の独特さが面白かったので合気道に転向されたとのことでした。もともと武道経験が深かったからこそ、筋力だけではない力の使い方を追求できたのかもしれません。私は大変レベルの高い道場だと思いました。

 

この道場はハバナ中心市街と運河を挟んで対岸の郊外にあります。運河を渡る船は夕刻で終了し、行き来にはバスしかありません。そのバスもいつ来るか分からないものでした。バスを待ちながら(このままバスが来なかったら真っ暗な下町の路地で野宿になるぞ…?)と、とても不安でした。運よくバスは来ましたが、本当に来ないこともあるそうです。市街に戻ったのは0時を過ぎていました。せっかく内容的には素晴らしい道場なのにこういう交通事情ではなかなか参加しにくいですから、次に行く時には改善していてほしいものです。

 

「日本にもこの程度の合気道はある」という人はもちろんあるでしょう。しかし、床の抜けた暗く暑い道場で、基本に忠実な合気道を何十年も黙々と稽古している光景は、本当に自分の心構えを変える大きな体験でした。Cepeda先生は、「予算が足りずアメリカ本部の先生方を招聘できない」と嘆いておられました。私は複雑な問題だと思います。

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Habana道場 (Cadenas #119 San Antonio y Versalles, Guanabacoa, La Habana)