大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

稽古記録58 (2018/10/1)

2018/10/1(月) 19:00-20:00 境内 参加2名、負傷なし

                   <まとめ >

 1・「方向性のなさ」のマトリクスー折れない手の精密度

2.「ずれ」の種類と作用

合気道の技の特徴として、「方向性のなさ」と「ずれ」が挙げられます。順序良く練習する目的でこれらを便宜上分類しました。

 

【1】方向性のなさ

結んだ状態で押したり引いたりすると相手はつぎの動きを容易に予測できます。逆に方向性に関する情報が与えられないとき、受は対応能力が低下します。だから方向性を悟らせないことは大切です。そのためによくあるやり方を仮に下位の方から「握らせた部分」→「体全体」→「認識」と段階分けしてみます (Fig.1)。

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  Fig.1  下位~上位や番号は説明のためです。難易度・重要性の序列とは関係ありません。

 

1-1】握らせた部分の方向性をなくす

要は「折れない手」です。「指先からビームが出ているイメージ」とか「伸筋側で」と表現されますが、ダイナミックな技の中でも精密に使えるように工夫しました。

肘から先はプラプラにしておきます。まず自分の右肘あたりを左手で軽く支えてから( Fig.2 B) 受役に右手首を握ってもらい、ゆっくり支えた左手を放します。こうすると受にかなりな力を加えられても取の右腕は余計な力みが取れたままです。この感覚を覚えて、そのうち支え無しで、いつでもサッとこの状態にできることを目指します。

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 Fig.2 肩を落とすと肩甲骨は前鋸筋に引き寄せられ、左右方向への動きが制限される(A ⇨)。

折れない手を作るとき、上腕はどのようになっているか触ってみてください。上腕三頭筋が最低限のテンションで緊張しています。合気道では通常、脇をしめることが強調されますが、三頭筋を使う折れない手はむしろ脇をゆるく開けているほうがこの感覚はよく分かります (Cの右腕) 。 ただし肩はいからせないように。なぜなら肩甲骨が浮くと可動性が良くなり、上腕の筋肉をガチガチに固めなければ受に押し込まれてしまいます。肩を降ろすと肩甲骨は体幹にロックされるので上腕骨にかかった力を体幹へ逃がせられます (Fig.2 A)。

 

技のなかでは色々なパターンの折れない手を作りますが、練習として一番分かり易いのは上記のように、肩を落とし、脇をあけ (上腕を少し内旋するということ)、肘は楽に曲げて手首プラプラ です。温泉に浸かって肘を縁に預け、手先を湯に浮かせている感じです (Fig.3)。

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 Fig.3 折れない手 練習中

 

 【1-2】体全体の方向性をなくす

中心帰納稽古 (稽古記録54)でもやったように、技をしようとするとどうしても重心が後ろで体は前のめりになります。これが方向性です。足は地面にべったり居着いて動かしにくいです。半身を取り過ぎて受に対して斜に構えたりするとよけいに、動ける方向は前後に限定されます。良い姿勢に戻して骨盤と脊椎・骨盤と股関節の関係を改善すると、体はまっすぐ縦方向へ力を逃がせるようにし、足は360°素早く動かせます。体の方向性が低い状態(≒全方向)です。

 

 【1-3】認識の方向性をなくす

認識の方向性とは、第一には入力窓口の偏りです。人間は殆どの情報を視覚から入力しています。とくに受と組み合ったりすると一生懸命受を見たり、より悪いと掴まれた部分を見たりしてしまいます。そこで、焦点をずらしたり周辺視野で見るようにしたりしてわざと視覚情報を抑制します。同時に聴覚・触覚・温痛覚・振動覚・位置覚などへ神経を分散させます。腕だけに捕らわれていた意識が体全体に行き届き、腕と体が一体となって動くことができます。

 

先月に、「手の掴まれた部分を忘れなければならない、同時に腕が緩まないように意識しなければならない」という点が難しいと言いました (稽古記録56)。今回、それは結構解決しつつあります。ポイントは、精度の高い折れない手をしっかり作り体幹と上肢を一体にすることです。そうすれば認識の方向性をなくしてボーっとしたときでも、腕はちゃんと正しい形をオートマティックに維持してくれるようです(Fig.1右上)。

 

認知のフィルターによって生じる方向性については、回を改めて話します。

 

 

【2】ギャップ(ずれ)の種類

合気道ではギャップを利用して受よりも有利になろうとします。多くの人が各自のやり方を持っています。ここではその1例を挙げて、空間・時間・認知のギャップに分類してみました(Fig.4) 。

【2-1】空間的ズレ

姿勢のことです。手を握られると無意識に重心が移動してしまうのを元に戻す稽古を私たちはしてきました。しかし受もこのことを知っていて上手く良い姿勢を作っていたら自分の有利性は無くなります。受が気付く前に自分だけ姿勢を立て直して空間的有利性を稼ぐことが理想です。そうすると受のイメージする取の重心位置と実際のそれとにギャップが生じます。

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 Fig.4 ズレのマトリクス

 

【2-2】時間的ズレ

運動パターンのズレのことです。1つはスピードを加速せず一定にしたり、一瞬静止したり という経時的な工夫によって、受の自然な運動の予測と現実とにズレを引き起こします。もう1つは、折れない手と良い姿勢によって体全体を1つにする作業を、受より早いタイミングで済ませることです。経験のある受はこの手のズレに瞬時に対応してついてこれますが、せめて受より先に作り上げて一瞬でも優位にたつようにします。

 

【2-3】認知的ズレ

情報入力機関を視覚からそれ以外にシフトする事で、取の認知的反応速度が上がり受のそれとズレが生じます。

 

【2-4】ズレは一瞬で・ズレ幅は大きく

共通して言えることは、ズレは突然に、一瞬だけ生じさせることです。ズレ操作は受もできることなので、ノロノロやったり気づかれたりするともう効きません。

またズレの幅は大きいほど良いです。しかし大きくずらそうとすると受の意識化に登る恐れがあります。対策としては、仕掛ける前の段階で、ズレの結果期待される状態と逆の状態へ誘導しておくと変化の幅が稼げます。

例えば、2-3認知のズレ の場合、受に100%の視覚集中状態にさせておくために、取の方もやる気満々 (神経の状態は交感神経過緊張)を作ります。受はつられて 取の体の一部、大抵は手、に視線が固定されます。受の方向性が極端に高くなるわけです。

よろしくないのは、受がもともとリラックスして副交感神経優位状態にある場合です。ズレを生じさせてもズレ幅(受と取の認知的状態の差異)が少なく、優位に立てません。

逆も使えます。取が仕掛けの段階で極端にリラックスし、結んだ直後に急に戦闘態勢(交感神経過緊張)になると受はつられて一瞬動けなくなります。群の習性です(稽古記録49 最下 「心理作用を利用」を参照)。

 

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寒くなるまでは境内か川べりでタダ稽古