《続き》前回:「病の声=仙腸関節のヒント 」
ぎっくり腰を契機に仙腸関節を意識すると面白い発見があるのだいう話をしました。さてその前に、仙腸関節を意識するとは具体的にどういう状態を指すのでしょうか?なんとなくお尻のあたりを気にする感じ、でいいのでしょうか?
【意識を向けるということ】
■ "方向性がない意識" とは
合気道では「目で見える前方だけでなく、360°の方向性のない意識を持ちなさい」と言われます。それはつい、魚眼レンズのような360°方向の意識 (レンズ中心から四方八方に視線の矢印が出ている) を想像してしまいますが、むしろ墨を封じ込めたカプセルが水中で溶けて隅が四方に広がっていくように、自然拡散で360°に「それそのもの」が広がっていく(視線の矢印がない) 感じだと思います。
蝶々に意識を向ける場面を想像してみましょう。蝶々がいなくて ぼーっとしている時は、ある意味360°の意識ですが、その意識の位置は定位置である眉間の裏あたりに居座っています (Fig.1 A)。では蝶々に「意識を向ける」をしてみます。図Bでは、たしかに意識は蝶々に向いていますが、意識が眉間の裏に位置したままなので、矢印 (⇒) のような方向性があります。そうではなく、意識の位置自体を対象物(蝶々)に移すようにすると、方向性がなくなります (C) 。
Fig.1 意識し、且つ方向性がない
■ 頭の中に広がるイメージ
道場に座って後ろの隅を意識してみましょう。はじめのうちは、後頭部に目がついていその目が後方の隅をじっと見ている感じでしょう。または、その隅にいるネズミがたてる物音を聞き取ろうとして、目は前方をみたまま後方に耳をすましている感じ (Fig.2 上左図) 。この場合 意識の矛先が隅に向かっていますから、頭の中にある視覚的イメージは、実際自分が今いる位置から振り返って見つめた隅の映像です (上右図) 。これは隅を意識しているが、方向性がある意識の仕方です。
Fig.2 稽古のときにも、「意識を向ける」ではなく「意識を広げる」稽古を。
次に、蝶々に意識の位置を移したように、隅に意識の位置を移します (下左図) 。体の外に移した意識は輪郭が曖昧になるので、隅の方向へ耳を澄ますということはありません。また、その時の視覚イメージは、意識の拠点が隅なのだからごく近くには畳のささくれが、遠くには座っている自分の背中が見えるようなイメージです (下右図) 。方向性は曖昧になります。
【仙腸関節を意識するとは】
このように、「意識する」とは、そちらに意識を向けて注目することではありません。やってみると判りますが、「仙腸関節を意識しよう!」として お尻の方角ばかり気にしていては、動きにくいのです (Fig.3 A) 。一方合気道的な意識の仕方 つまりあなたの意識が仙腸関節に居場所を移すと、見上げれば自分の上半身 さらに上空には飛行船や空が見渡せる感じです (B) 。自分にじかに乗っかった太い背骨の重みを感じたり、しなって重心がゆらいだりするのをダイレクトに感じられる 。CGやMRI画像でパラメータを変更する作業と同じで、体の深部感覚から得られた情報を意識レベルに上げるときに 異なったモードで再構成するかんじです。
Fig.3 座標系が変わる
つまり「意識する」とは、ゼロ点(あなたの意識の位置)から同一の座標系のある点(☆) に矢印が向かう(Fig.3 下右図) ではなく、座標系そのものが☆の位置に移動することです (下左図) 。ですから矢印(方向性)を遣わずに☆に注目できるのです。
このつぎ、「仙腸関節の機能(前編):弛みと中心帰納」についてです。
《 続く 》