【謎空間】
今日は相対性理論の仕上げです。リロンのところは適当に飛ばして、結果から世界がどうなっているっぽいか想像しましょう。
【1】ニュートンの式 (f=GmM/r2 ma=f)をポアソン風の表記してみると
∂i∂iφ=4πGρ (ρ=質量分布) d2xi/dt2=-∂iφ
すると ニュートンのままであるよりは少しアインシュタインの測地線方程式 d2xi/ds2=-Γijkdxj/ds*dxk/ds に似てきます。
この左辺、時間で2回割っているので加速度を表します。違いの1つは、アインシュタインのものには「時間」の要素が入っているからです。空間のある点が、時間の経過とともに移動することも言いあらわしたい。"時空" を表現したかったからです。
【3】 時間を表現する
Fig.1 A点からB点へニワトリが歩いた
時間軸がある空間を時空と言い、時空ダイアグラムで表せました (物理学酒場5 相対性理論①参照) 。ちょこちょこ動くニワトリの位置も、時空ダイヤグラムで表せます(Fig.1 )。
【2】 時空の距離 ― 平らな空間
このニワトリが動いた距離と時間を合わせた情報を時空距離と言い、Fig.1でいうと"ds"の長さです。こういう長さは2通りで表せます (Fig.2,3)。
Fig.2 x軸とy軸で位置を表すやり方
Fig.3 角度と距離で表すやり方 (極座標)
光速をcとして時空距離dsを極座標のやり方で表すと
① ds2=(cdt)2-dr2-(rdφ)2 になります。
【2】時空の距離 ― 曲がった空間
上の式は、なにもない空間の場合です。もし太陽やブラックホールのように大きな質量があるときは②式になります。
② ds2=(1-a/r) (cdt)2-[1/(1-a/r) ]dr2-r2dφ2
右辺に1-a/r などがくっつきました。aは質量によって決まる定数で、rは質量(大きさは殆どない点とする)からの距離です。これがくっついているとどうなるでしょう。時間の項はrがaに近づくほど小さくなるのが分かります。距離の項は逆に大きくなります (Fig.4)。
Fig.4 原点だけに質量があって他は真空 (シュバルツシルトの線素の式)
【3】重い質量の近くの時空
つまり、質量から10メートルごとに打たれた目盛は、遠く離れた場所では1目盛10mのままですが、Mに近いところでは11mとか100mとかに伸びます(Fig.5) 。距離aギリギリまで近づくと距離は余計に伸び、いつまでたってもaには辿りつけません!
もし各目盛に時計を置くと、aに近い時計ほど針はゆっくり進みます。距離aギリギリに置かれた時計は、もうほとんど時が止まったように見え、やはりいつまでたってもaには辿りつけません。
Fig.5 走っても走ってもaには辿りつかない
【4】 ブラックホールの周りでは何が起きるか
太陽のように質量が大きいものが点のように小さくなると想像します。ブラックホール的なものです。この点太陽を中心とする円を半径10mごとに描きます。距離aは点太陽に固有の定数です。遠くからロケットが点太陽に向かって近づいてみます。一定の速度で飛ぶロケットは10㎞ごとに円周を横切るはずです。しかしaに近づくほど円周同士の間隔が長く伸びてロケットは長い距離を飛ばなければなりません。ロケットはaに近づくほど速度が落ちているように見え、いつまでたってもaに到達しません。
またロケットの鼻先に飾ってある時計の針は、aに近づくほどゆっくり動くように見えます。aの直近では針が止まってしまっているふうに見えます。
これがブラックホール付近で起きることです。SF小説のように、なんでもかんでも中心まで吸い込まれて潰れてしまうイメージとはずいぶん違いますね。
【おまけ】
相対性理論はこれでおしまいです。こういうことをやっていると、人間の想像力は無限ではないどころか、ものすごく制限があってごく特化した範囲しかカバーできないのだということがよく分かりました。それは衝撃的で、良い体験でした。普段それを意識しないし、ましてや「想像力は無限」などと言って憚らないのは、日常生活がそれで不自由ないからです。我々は非常に偏って狭く限られた範囲を毎日生活しているのだなあ…! そんな想像力の制限をやすやすと乗り越えるのが数学だということを、学生のうちに知りたかったです。
受講生の1人(何かのプロ)が、200年前に日本語で書かれたニュートン物理学の本を写してきてくれました。暦象新書 (1798-1802年)です。
全部文字で書かれているので、大変読みづらい。しかし志筑忠雄 (1760-1806年) は、日本にいろんな概念を導入して、日本語の名前を付けました。「遠心力」、「求心力」、「重力」、「加速」、「楕円」などの言葉はこの本で初めて出てきます。
"「暦象新書」は長崎通詞であった志筑忠雄(1760-1806年)が、英ジョン・ケイル(1671-1721年)の“Introductiones Ad Veram Physicam Et Veram Astronomiam”のオランダ語版を翻訳し、自説を加えた書です。コペルニクスの地動説、ニュートン力学、ケプラーの法則や、真空などの概念について述べられています。" 国立天文台のぺージより。スケッチ画像も。(暦象新書 | 国立天文台(NAOJ))