大阪合気道自主稽古会

合気道経験者のための不定期な稽古会です。忙しくて道場に通えないが時々稽古したくなる人向け。流派は問いません。

物理学酒場9: 相対性理論⑤

【謎空間】

神戸のとあるレストランに夜な夜な集まる緩い集団。今回は殆ど数学のように見えますが、最後にはとても物理的な「なるほど!」感が得られます。想像や、数式を使わない例え話だけではこの納得感は無理なので、頑張っていきましょう。これだけ分かりやすく式を説明するスペイン料理店は珍しいと思います。

 

【続き:2次元での歪み】

2次元の世界に住む人が、その2次元がフラットか歪んでいるかをどうしたら判断できるか、というイマジネーション実験の続きです。 

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 ■ 幾何学の破綻

その人が自分の町に、地図のように真っすぐな線を描きました (Fig.1 左) 。10mごとに直角に交差する道です。面がフラットであれば1番街と2番街の間隔はどんなに北に上がっても同じ10mです。この面で1番通り(マントの男がいる通り)は10mであるが、ひとつ北側の2番通り(帽子の男がいる通り)を測ると8mだったとします。地球のように球面であれば北に行くほど経線の間隔は小さくなりますから、この町は球面かもしれませんね。しかし同時に、もともと道を斜めに描いてしまったのかも。

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  Fig.1 2次元人間が我々と同じ幾何学を持っているとします

心配になったら、ピタゴラスの定理 (Fig.1 右) を使ってみます。道に囲まれた敷地を斜めに二分する線(図の点線)を測ってみましょう。それがピタゴラスの式と合わなかった場合 ー 道は10mなのに斜めの線が50mなど ー この面はフラットではなさそうです。

 

 ■ 直線とは最短距離

その場所にとって真っすぐである線を測地線と呼びます。フラットな面ではそれは直線ですが、球面では曲がった線です。とにかく最短距離を行く線です (Fig.2 左)。2羽の鳥が同じ方向へ真っすぐ飛び立ちました。その世界がフラットならこの2羽はいつまでも会いません (右上) 。ところが地球のように球面であれば、平行に真っすぐ飛んでいたつもりなのにどこかで会います (右下) 。この2羽はお互いに重力が働いて引きあったように見えますね。しかし重力はありません。引きあったように見えるのは、面が曲がっているからです。

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Fig.2 力が無くても物体の運動が曲がる

 

■ 一般的な三角形の斜辺の長さ

街路と通りが直角に交差する町(デカルト座標町) であれば敷地の斜めの長さは先ほどのピタゴラスで算出できます。道が直角以外の角度で交差する一般座標町では、敷地の斜めの長さはどう表せるでしょうか。

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Fig.3 どんな座標であってもdsを表したい。

斜辺dsの長さは、dxメートルとdyメートルの、それぞれ2乗で表現されるだろうとは予想がつきます(ここの"d"は小さいものにつく定冠詞です。"dx" と言うと、「x成分のうちの、特定の小さな一部分ちゃん」という意味です)。よって(1)のように表現してみます。大文字A-Cは、座標系ごとに特有の数(定数)を表します。

 (1) ds2=Adx2+Bdxdy+Cdy2

2つの成分を慣習に従ってx, yで表しましたが、別にx1, x2という記号で表してもいいです (Fig.3の囲い文字)。すると次のように書き換えられます。

 (2)  ds2=A(dx1)2+ Bdx1dx2 + C(dx2)2

冪数(2乗とか) をばらけさせて書きます 。

 (3)  ds2=Adx1dx1+B/2Bdx1x2+B/2dx2x1 + Cdx2x2

定数を表す記号A-Cを A=g11  B/2=g12  B/2=g21 C=g22 と書き換えると、

 (4) ds2=g11dx1dx1+g12dx1dx2+g21dx2dx1+g22dx2dx2

となります。g12の中の1や2を簡単にするために、「iとjにはそれぞれ1か2が入る。その組み合わせを全部足す。」という決まりにすると、

 (5) ds2=gijdxidxj

シンプルになりました。 これを「線素の式」と呼びます。行列( i, j )成分を並べれば、この座標における線素dsが決定されるわけです。長さを決定することを計量というので、gij を「計量テンソル」と呼びます。次の式の中に出てきますよ。

   f:id:fanon36:20180223084332j:image お疲れさまでした

 

 【アインシュタインの重力理論=一般相対性理論

■ その1:重力場方程式

前回「物理学酒場8」で出てきた方程式を、もう一度見てみます。

   重力場方程式 Rij-1/2gijR=kTij  (k=8πG/c4)

左辺は空間の曲がり具合を表します。右辺は物質の質量と速度からなる量です。これらがイコール、ということは、物質が空間の曲がり方を決定している‼︎ と分かりました。物体がお互いに引っ張り合う現象は、ニュートン万有引力の法則 f=GmM/rのf (力) に当たる「重力という力」ではなく、物体そのものによる空間の曲がりのせいだったのです。

  

■ その2:測地線方程式

ニュートンでいう運動の法則ma=fはどうなるでしょうか。A地点からB地点へ最短距離で動いた運動の軌跡を測地線と呼びます。平面では直線です。直線でなくなるとき、運動する物体には力fが働いているのでしょうか?

あるフラットな平面に半径10メートルの円aを描くと、円周は628メートルです。円aより半径が1メートル大きい円bの円周は760メートル、さらに半径が1メートル大きい円cの円周は904メートル…となります (Fig.4) 。逆に言うと、こういう円a~dを同じ中心で置くと、円周のあいだの距離はa~bも、b~cも、c~dも全て1メートルです。

f:id:fanon36:20180223181338p:plain Fig.4 質量がない平面では計算通りで平和

ところが、中心に太陽みたいに大きな質量の物体を置くと円周の間隔が違ってきました。c~dは1メートルなのに、b~cは1.3メートル、a~bは1.8メートル、と中心に近づくほど幅が大きくなるのです。中心に近づくほど距離が長くなっていくみたいです (Fig.5左) 。そんな平面では、A点からB点に最も速く走ろうとすると、中心近くはちょっと避けた方がかえって速そうです (右) 。太陽がなければABの最短距離は黒矢印ですが、太陽があるこの平面では最短距離は曲がって見える白矢印です。曲がっていますが、この平面ではこれが測地線です。

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 Fig.5 私たちが住む太陽系は実際こんな風に歪んでいます!

この運動の曲がり(変化)は力が加わったのではありませんね。空間が歪んだから曲がったのです。これがアインシュタイン版の「運動の法則」です。測地線方程式と言います。 

    測地線方程式 d2xi/ds2=-Γijkdxj/ds*dxk/ds

同じ1mという距離なのに、中心に近づくほど進むのが難儀になっていく(Fig.6)。真ん中の質量が太陽より重いブラックホールであれば、中心近くでは進むのがものすごく難しくなって、1m進むのにほとんど無限の時間がかかるかもしれません。というわけで次回はブラックホールがある空間をやります。

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Fig.6 上空から見ると、中心にいくほどノロノロ走るように見えるでしょう

      f:id:fanon36:20180223084341j:image 差し入れの太陽系チョコレ

 

【考察】 

 今回は数式が出てきてつまらないと思われるかもしれません。しかし空間が歪むということは、どうやっても想像できないのです。もし想像できたとすれば、それは間違った方に行ってしまっていると思います。でも「あ!そうか!」という感覚、欲しいですよね?そのために勉強しているのですから。そこで数式です。外付けの頭脳のように、私が分からない事を考え続けてくれて、最終的に「あ、そうか!」をくれるものです。試験ではない数式は、遠い国の外国語と同じです。ここは、そのエキゾチックな文法を楽しむ余裕があります。

 

今回出てきた「測地線」は聞き慣れない言葉です。英語で言ってみると、"Geodesic"です。どこかで聞いた事がありませんか?未来的なドーム状建築物の名前です。私が好きな思想家・発明家・建築家・芸術家 ・文学者、バックミンスター・フラーが設計した、あのドームです。フラーと言えばダイマクション地図のほうが有名かもしれません。実はこの地図は「物理学酒場7」Fig.6にひっそりと登場してます。

 

測地線ドーム (geodesic dome)とBuckminster Fuller

 「dymaxion map」の画像検索結果 Dymaxion map

 久しぶりにフラーを思い出して良かったです。うろ覚えですが、彼はこういうことを言っていました。
・ すべての絶滅は過度の専門化の結果である。専門化が包括的思考を妨げ、世界をダメにする。
・ 富とは「環境に対処するための、組織だった能力である。健全な再生をつづけ、また未来における物質的・超物質的な制限を減らすための。」
・ 一部の者だけを益するのではなく、社会全体の生活を底上げをする者が、持続的な富を得る。

 

 (次回に続く)   

 

 

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ニュートンの重力理論> 

万有引力の法則 f=GmM/r2

運動の法則 ma=f

アインシュタインの重力理論(一般相対性理論)>

重力場方程式 Rij-1/2gijR=kTij  (k=8πG/c4)

測地線方程式 d2xi/ds2=-Γijkdxj/ds*dxk/ds

・線素の式 ds2=gijdxidxj

・クリストッフェル記号 Γhij=1/2ghl(∂iglj+∂jgli+∂lgij)

・リーマン曲率テンソル Rhijk=∂jΓhik-∂kΓhijlikΓhjllijΓhkl

・リッチテンソル  Rij=Rhijh

・エネルギー・運動テンソル Tij=ρνiνj

 ・シュバルツシルトの解(球対象で静的な真空解)

 線素の式 ds2=(1-a/r)d(ct)2-[1/(1-a/r)]dr2-r2(dθ2+sin2θdφ2)

  その赤道面(θ=π/2)の空間部分 dl2=[1/(1-a/r)]dr2+r22