大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

深夜回診9

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血友病のIさんは私と同い年でした。血友病は重症になると血が止まりにくくなるため凝固因子製剤を週に3回ほど注射します。自分で打ちます。私は注射が嫌いで自分で打つのなんかもっと嫌です。あるとき私が大変ですねと言うとIさんは、「いいえ、注射薬ができる前はもっと大変だった。小学生の頃の記憶はほとんどないんです、ただいつも痛かったということしか覚えていなくて。」と答えました (関節・筋肉内出血を繰り返していたと思われます)。
たしかに濃縮凝固因子製剤の自己注射が保険適用になったのは1983年ですから、そんな時代でしょう。私はその頃 毎日サッカーをしていたなぁと思いました。

 そういえば70歳代のNさんも、同じようなことを言っていました。自己注射を一生し続けなければならないなんて普通の人から見ると面倒で嫌なことです。なぜ自分だけがこんな目に、と思うんじゃないかと想像してしまいますが、Nさんは「とんでもない。これのおかげでどんなに楽になったか。」と言っていました。同情すりゃいいってものではありませんね。年季の入った患者が他人事みたいに話す病話を聴くのは面白い。彼は固まった左右の膝関節を人工関節に置き換える手術を受け、スタスタと階段を登ったりボートに乗ったりして、言われなければ手術をうけたとはわかりません。

 

血友病の治療は特に近年急に発達したため、患者はその効能とリスクを1人分の人生の中で実感しています。
考えてみるとどんな治療法も同様なのですが、昔からあるのが当たり前である治療法は、嫌な面だけ強調されるきらいがあります。ワクチンもインスリンも、登場した時は魔法の薬であったのに、そのうち欠点ばかりをあげつらわれて攻撃され、薬も患者もかわいそうだなぁと思います。もちろん欠点はない方がいいですが、完全無欠でないと許せないというのでは、不満ばかりになってしまいます。この地方の患者は不満が多くよく怒っています。島ではこんなではなかったですが、地域性というより時代のせいなら あそこもこんなになってるかもしれませんね。

 

Iさんはある年のクリスマスイブに、首が痛くて入院しました。凝固因子製剤は昔、肝炎ウイルスが混じっていることがあり運が悪いと肝炎や肝癌に罹る人がいたのです。
Iさんの癌はすごい速さで体中に転移し、1日ごとに手足が麻痺したり呼吸ができなくなったりしていきました。あまりに急激な病状の進行についていけないふうではありながらも、まだ喋ることができた時に「子供の頃から病気を色々したのでもう驚かないです」と言うので、私の方が驚きました。1ヶ月経たずに亡くなりました。
私は小学校の友達が死んだような不思議な気がします。患者に死なれることには慣れていますが、どうも整理がつかないことが時々あります。