大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。漫画、小説、修行の旅が混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。

深夜回診6

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  (続き)

とまれSさんは、むくまない程度の少ない点滴(医療安全パトロールよけ) だけで、数週間後にうたた寝でもするように死にました。


死ぬ数日前はいろんな幻覚が見えます。末期の人の85%の人に幻覚がみられるというデータがあります (Arch Intern Med.2000;16(2):357-72)。Sさんも最後の方ではうわ言をよく言っていました。ほぼ一日中うとうとしていたSさんを起こして何か来たか何か聞こえたか尋ねると、とりとめなく話してくれました。突拍子もない幻覚の断片は大方意味不明でしたがSさんがなんのツボに入ったのやら笑いながら話してくれるのが面白く、たびたび揺り起こしては聞き出しました。この意識障害を譫妄といいますが、これもこの場合は病気ではなく自然が見せる最後の気散じだとしたら、良くできています。私の時は、くれぐれも抗幻覚薬などで「治療」しないでほしいです。

人目を気にして、もしくは後で文句をつけられたときにカルテで勝つために行う治療や検査を「アリバイ治療」や「アリバイ検査」と私は心の中で呼んでます。そんな類の抗生剤投与、電解質補正、採血などをする暇があるなら、その時間をできるだけベッドサイドに訪れて話しかけ、手を握ったり頭を撫でたりすることに使った方がよほどいいです。死を実物として体感するくらいの頃に一番嫌なことは寂しいということだからです。あなたも人生で一番孤独な作業に取り掛かるとき、すなわち死ぬときに、主治医がカルテのアリバイ作りと家族へのインフォームドコンセントで忙しくしているより、なにかとあなたの元を訪れては話しかけ、あなたの話に耳をかたむけてほしくないですか。

つまり、楽な死に様のためにその1は、天涯孤独であることです。今はどんなにとおくても血縁の方が、同居の親友よりも重要視されます(この風潮は今後独り者率の上昇に伴い変わっていくと期待しますが)。
親戚を持つくらいなら友達を持つことです。患者の親身な友達は医療者からいい具合に軽んぜられ、つまり建前でなく本音でやりとりできる相手です。下手すると敵になりうるご家族より、患者の親友に対しては仲間意識が湧きやすい。

運悪くあなたに親戚や家族がいるなら、十分に教育して死に方について具体的に何度も話すことです。「延命なんかいやだ」とか「ぼけたり動けなくなったら殺してほしいわ〜」みたいになんとなくな他人任せな夢話ではいけません。あなたが、なにをどうするか。具体的にです。

私が死も視野に入れるべき病態になったとき、私もしくは私の家族が、私を生き延びさせることに少しでも執着を見せれば、私の主治医は鋭く嗅ぎ取りアリバイ治療をわんさと勧めてくるでしょう。えらそうに言っても治療を断るのは気力を消費するものですから、繰り返し勧められると私でもフラリとゆらぐ恐れがあります。そうならないように最初の意思表示はキッパリとしよう。
主治医も不安なのですから、私たちは同じ方向を向いているのだと理解させて安心させてあげましょう。「まだ元気なのにそんな話縁起でもない!」「見捨てる気か!」と怒鳴られる恐れがないと判れば、できるだけ自由に苦痛を軽減して過ごす選択肢を、準備時間を十分とる余裕があるうちに、話し合えます。こういうことは早すぎて悪いことはない。あるとすれば現実から目を背ける事が難しくなることくらいです。

 

このいざという時にキッパリするためには、理想的には20年ほど必要だと思いました。だから40歳から始めないと間に合わないのです。

     《 続く 》