大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

物理学酒場7: 相対性理論③

【謎空間】

2018年1月25日寒波の夜、神戸のとあるスペイン料理店。普段は端っこのテーブルですが今夜は参加者が多いため中央の大きなテーブルです。実験室なのにライティングは薄暗く抑えられているのが面白い。レストランなのに参加者がお酒やおやつを差し入れしているのが面白い。

    f:id:fanon36:20180126120410j:image 参加者さん作おやつ

特殊相対性理論 (光の速さの運動)が1905年、それから一般相対性理論が1916年にでるまで10年間以上、頭のいい人が考えたことですから簡単ではありません。少しずつ行きましょう。

ニュートン物理学はすごい】

 前回に万有引力と運動の法則を勉強しました。

  万有引力    f = GmM/r^2 (G=6.67 * 10^-11 N・m^2/kg^2)

    運動の法則 ma = f 

前半はこれらを使ってみたり、実際に体感できる実験をしたりです。

 

■ 運動の予測に使ってみる 

上空1万メートルを飛ぶ飛行機から落ちたら、何秒で地上に激突するか。空気抵抗を考えなければ運動の法則を使って算出できます。毎秒9.8m/sずつ加速して運動する場合、

  y = 1/2 * 9.8 * t^2     t =時間(秒) y=移動距離(m)

ですから、y=10,000メートルのときには t = 45秒。1分以内に10kmを落下するのだとわかります (実際は空気抵抗があるのでもっとゆっくりになります)。さらに その時の速度もわかります。

 v = 9.8 (m/s^2) * 45秒 =441m/秒。

音速 (340m/秒) より速くなります (これも空気抵抗があるので本当はもっとゆっくりです)。

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 いろいろ予測できて便利ですね。皆で計算しているときに、次のような面白い疑問が出ましたよ。

 

■ なぜ空気は落ちてこないのか?

地球には重力があるお蔭で空気が宇宙に飛び去っていかずに地上に層となって留まっています。この空気の分子の1つ1つにも重力は働いています。分子はとても小さいけど、重力加速度9.8 (m/s^2)は重さによって変わらないから分子も9.8 (m/s^2)で地上に落ちてくるはずです。そして最後には気体の分子が全部地上に降り積もってしまい、大気は真空になるはずです。今、そうなっていません。何故でしょうか?

 

実は分子は床に落ちてきています。床にぶつかったときに、床の分子が熱運動をしているので弾き飛ばされて上空に戻ってしまいます。ですから絶対零度の部屋で床分子が静止していれば空気の分子は床に溜まっていきます (Fig.1)。液体空気です。

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Fig.1 絶対零度の部屋では空気が床に溜まって息ができない!

 

■ 法則を実感する実験その1

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私たちが実際に重力加速度9.8 (m/s^2)の世界に住んでいることを実感するために、物体を落として本当に計算通りにいくかどうかやってみたいところです。レストランでやるには高さが足りないし、細かい時間を測定するのは難しいので、かわりに振り子を使います。ゴムボールを吊るす紐を1メートルのところで持って揺らしてみましょう。10回往復するのに何秒かかるかストップウォッチで測ります (Fig.2)。

f:id:fanon36:20180126163503p:plain Fig.2 いつでもすぐできる実

10往復する時間を結構いい加減な数人が測った平均は20.04秒でした。それを代入して計算すると g = 9.8 。ちゃんと こうなりました。もちろんそうならなければ困るのですが、実測値を当てはめて自分で算出すると盛り上がりますよ。みな大喜びです。

 

■ 法則を実感する実験その2

前回、万有引力と運動の法則から a = GM/r^2 となり、物質の重さに関わらず加速度aは一定だという結論になりました。では実際に我々の地球で計算してみましょう (Fig.3)。

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Fig.3 猫を落としてしまった!回転するので後頭部をぶつける心配はありません。その加速度は?

 

計算機でやってみましょう。a = GM/r^2 に当てはめて

a = 6.674 * 10^-11 * 5.972 * 10^24 / (6.37 * 10^6)^2 = 9.8

ほら、なりますね!ニュートン物理学は便利ですね。

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 【ニュートン物理学の何が不満?】

なんでも計算できそうなニュートン物理学です。しかしとりあえず放っておかれた疑問、二つの方程式の質量はそれぞれ重力質量と慣性質量と異なる質量なのに、なぜ同じに扱えるのか?(物理学酒場6【等価原理】を参照)

誰もわかりませんでした。そこでアインシュタインは「それはなぜか?」ではなく、「それが原理なのだ」という転換をしたのです。これはとても天才なことです。

 

【重力ーなにがおきているのか?】

 真空の宇宙のあるところに、Aさんと野球ボールと蝶と鏡餅と星がいます。そこを箱で囲みます (Fig.4左図) 。みな浮いていますね。その箱を加速度をつけて引っ張ります。するとAさんからみると何が起きますか?ボールも蝶も鏡餅も星も、重さに関係なく同じ加速度で落ちてくるように見えます (右図) 。これはまるで重力が発生したのと同じです。重力とは、こういうことが起きているのでは??

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 Fig.4 Aさんにとっては、箱が動いたのか急に重力が発生したのか区別がつかない。

 

【動かない地球に加速度が発生?】

しかし丸い地球の全方向に重力はあるので、上の宇宙箱の仕組みを使おうとすると地球が大膨張するしかありません (Fig.5) 。これは無理があります。ほかに、「全てのものが重さにかかわらず地球に向って加速してくる」には、どういったモデルが考えられるでしょうか?

f:id:fanon36:20180126163700p:plain Fig.5 こんなふうだと、光速になってしまう。

 

 ■ 平面モデルは立体に応用できるか?

分かりやすさのためによく使われるモデルは、2次元である平面世界です。トランポリンのような平面の真ん中にボウリングボールを置くとそこを中心に面は沈みます。そのトランポリン面に置かれたものは皆、ボウリングボールの沈みが作った斜面を転がり、つまりボウリングボールの方へ引き寄せられます。この物体の動きは重力に似ています。こういう2次元の面はイメージしやすいですね。

しかしこの仕組みを3次元に応用するとはどういうことでしょうか。「同様のことが3次元でも起きており…」とか言われても想像がつきません。胡散臭いです…。そこで、直感的に想像できないことを考えてくれる外付けアプリ=幾何学をしてみます。

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■ 幾何学的な法則の破綻

曲がっていない真っ平らな平面に私たちは住んでいるとします。2次元人間です。私たちは自分が属している平面が曲がっているのか 真っ平らなのか分かりません。面が曲がっているときは、そこにいる私たちも物差しも同時に曲がるだろうからです。ところで、真っ平らな面に描かれた三角形の内角の和は180°です。かりに面が地球儀の表面に貼り付けたみたいに曲がっていると、三角形の内角の和は180°以上になります (Fig.6) 。これなら2次元人間でも測定することができ、自分たちが住む面が曲がっているのだと察知できます。円も診断に使えます。円周の長さの実測値が、半径から算出した円周の長さよりも短いときは、面は凸にまがっているのでしょう。

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 Fig.6 私たちは曲がっているらしい。

このやり方は3次元空間に転用するには、円のかわりに球を測ります。表面積が半径から算出した値より実測値が小さい場所は…  空間が曲がっているのだと考えられるのです。トランポリン面が曲がるように空間が曲がることは、あるっぽいのです。

 

■ 重力の正体

真ん中が沈んだトランポリン面にあるものは真ん中に向って加速して落ちていくように、空間の曲がった場所ではそこに物体が加速度を持って引き寄せられる。この空間の曲がりが重力ではないか、とアインシュタインはいうのです。

 

     《  * 続く * 》

 

【考察】

曲がった空間では曲がった幾何学が出来上がっていると思います。私たちが住んでいる空間では正三角形の一角は60°と決まっています。一方、宇宙のどこかに正三角形の一角が70°である空間があるとすると、その世界では学校で「三角形の内角の和は210°ですよ。これより小さいことがあれば、その空間は凹んでるのですよ。」と教えているでしょう。私たちは歪んでいます…。歪んでいるおかげで重力があるからいいのだけど。

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 【疑問】

空間の歪みを2次元に落とし込んで説明される際によく見られる "トランポリンとボウリングボールのモデル" は、私はピンときません。「ボウリングボールが沈んで斜面ができ、面の上の物はそこに転がり落ちる」ことと、「よって2次元面の物はボールに引き寄せられる」こととは関係がないように思えます。

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Fig.7 トランポリン「上」に置かれたビーズは転がり落ちるが

例えばビーズ玉がばらまかれたトランポリンの真ん中にボウリングボールを置くと、ビーズ玉はたしかにボウリングボールに向かって転がり落ちます (Fig.7) 。しかしビーズ玉が落ちることができる為にはそれらが "面の外" にあることが必要なので、厚み=3次元の現象です。厚みがあるからこそ面的「曲がり」が空間的「上下」になって、転がり落ちることができる。ほんとうに2次元の面の内部にあるもの、たとえば面に縫い込まれたビーズや面に描かれた模様は、面が傾いても落ちません (Fig.8)。トランポリン面内にあるものにとっては、ボウリングボールは自分たちを傾かせるものではなく、引き伸ばすものなのです。

引き伸ばされたトランポリン面の模様は、もちろんボールに引き寄せられません。むしろ戻ろうとする力でボールを引き寄せます。なので、この力のイメージは「加速度をつけて落ちていく」というより、弾性力とか張力とか復元力という、"引き寄せる力" です。このように、3次元のビーズが落ちる力 (Fig.8 ①)と、2次元の模様が戻る力 (②) は正反対です。

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Fig.8 トランポリン面のチューリップ模様がボールから受ける影響②は「伸ばされ」であり落下ではない。一般の重力のイメージと重なる「落下」は実は3次元のビーズの動き。このモデルは2つのイメージをmixしており一瞬説得されそうになるが腑に落ちない。

 

さて、これと同じことが3次元に起きているとすると、どんなふうでしょう?私が飛行機から落ちるとき、地球によって私が引っ張られるように見えますが、地球は私と直接関係はありません。地球は "私が属している空間" に何かをしていることになります。トランポリンの説明を応用すると、"私が属している空間" は、地球によって引き伸ばされた分だけ元に戻ろうとして縮む力を持っています。縮む力のさらに反作用みたいなもの ー加速度ー に、私が巻き込まれてるんじゃないかと感じました。

 

 さきほど2次元 (トランポリン) が引き伸ばされると3次元 (ビーズ) は転がり落ちたことを単純に当てはめると、3次元 (空間) が引き伸ばされると4次元 ( ? ) が転がり落ちる… 加速度とは4次元の力??まさか!SF的になってしまいました。

以上は3次元では、空間の復元力が、その空間に属する物体に加速度を与えるという仮説です。しかしこれは明らかにおかしなアイデアです。空間の曲がりによって地球が物体を引きつけて質量を増せば、空間は更に曲がっていくではありませんか (Fig.9)。これでは復元力と真反対の作用です。その上袋小路です。あ、袋小路のブラックホールというものがありましたね。ややこしい…。

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Fig.9 リンゴを食べる事で大きくなり、大きくなることでよりリンゴを引き寄せる…一方通行の変化に落ち込んでいます。



空間は曲がっているかもしれません。しかし、曲がっていることが何故加速度を与えるのか結局分からないままです。次回の授業が待ち遠しいですね。こういうLectureを、私は「金色の学校」と呼んでいます。

 

      《  * 続く * 》