大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

冥王星島 20

箱尾地方の風習 (下)

面白半分に魔物を警戒するふりをして門柱の陰から街道を左右伺い、さっと道を渡る。変な物を見ないように、集まることにしている家へ小走りする。さあ、やる事のない人が集まった先では噂話だ仕事の愚痴だ言葉のゲームだなどして過ごす。下げものをつついて飲みながら、真っ赤な火だけがゆらぐ暗闇にこれだけ集まれば、どうしても盛り上がって歓声があがりがちです。ほんとうは魔物をやり過ごすために留守を装う日なので、人々は定期的に しーっと声を潜め合う。この、騒いではいけないという制限が、また人は好きなものです。

それにしてもじっさい不便なことです。あ 飲み物をこぼした、といって拭くにしても、覆いを着せた蝋燭の灯りではどこまで拭いたらいいかわからないです。実に寒いし。めいめい自宅のストーブで作っておいた湯たんぽを抱えて来るが、ひっきりなしに出入りがあるため冷気が入る。部屋の空気を入れ替えたり、誰かが手洗いに立ったりで、狭い部屋に人々の体温と山の冷気が忙しなく入り混じる。みな入れ替わり立ち替わりに窓の外を覗いて、普段と違う真っ暗な風景を眺めたがる。自分たちの町が廃墟になった、ずっと先の未来に来たような不思議な怖い感じを楽しむ。それが一晩中。

それだけのことで、翌朝からはまた何食わぬ顔で普通の日に戻り、年末なのでいっそう忙しいのを再開するのです。昨日ほとんどしなかった仕事を片付けなければならず、揃って急速に元どおりにやるさまは、あの暮れ方の記憶を振り落とすようにです。また来年の冬至の翌日まで。

誰にも言っていない、ある年の冬至の翌日の話があります。

(「冬至祭」に続く)

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