大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

物理学酒場6: 相対性理論②

 【謎空間】

2018年1月11日。神戸のとあるスペイン料理店。今年も早々に、営業中のレストランの一隅にホワイトボードとテーブルを寄せて、物理実験室です。たぶんこの冬一番寒い夜でした。

 

【重力による加速】

空気抵抗のない真空では、重い本とティッシュペーパーが同じ速さで落ちるといいます。宇宙的な光景が思い浮かびます。これを空気に満ちたレストランでや再現しました。どうやって?使ったものは、本とティッシュペーパーだけです。

f:id:fanon36:20180116172520p:plain Fig.1 本とティッシュの真空実験

本の上にティッシュペーパーを置いて一緒に落とします。こうするとティッシュペーパーに空気が当たらないので空気抵抗を考えなくてよくなります。フワフワのティッシュペーパーが重い本と同じスピードで落ちていきます(Fig.1 左)。加速度には重さは無関係のようです。

ではティッシュペーパーを本から上へ10㎝くらい離して、同時に落としてみましょう。本とティッシュペーパーはそれぞれどんな落ち方をしましたか?それはなぜでしょう?

 

【重力と運動】

f:id:fanon36:20180116172610p:plain Fig.2 引力

 本を動かすとき、本にかかる力の大きさFは、本の重さm*加速度aです。

本にかかる引力はGmM/r^2です。(M:地球の重さ  r:地球の中心からの距離  G:定数)

この連立方程式から加速度aは求められますが、それには重さmは含まれません (Fig.2)。mとMを入替えても一緒。つまり本に地球が落ちてくる、でもいい。

f:id:fanon36:20180116172638p:plain Fig.3 運動方程式

地上何メートルかの位置にある植木鉢①が下に引っ張られる強さは、②のそれより小さいです(分母のr1がr2より大きいから)。その差F'=F2-F1= GmM(1/r^2-1/r^1)です。下へ引っ張られる力が植木鉢の「重さ」です。同じ植木鉢なのに②は①より重さがF'だけ軽いのです(Fig.3)。

軽くなった分はどこへ行ったのかというと、落ちる運動の力F'=a*mです。2つを連立方程式で解くと、mが消えます。重さmの植木鉢①が落下する加速度は、重さmとは関係がないのです。

それはともかく、植木鉢の重さが2種類出てきました。「m」と「引っ張られ度合い」です。

 

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【質量って何?】

◾︎ 謎の引っ張られ: 重力質量

f:id:fanon36:20180116172844p:plain Fig.4 下に引っ張られている

地上では皆、なぜか地球から引っ張られています。そして人によって引っ張られ方は違います。バネに吊るすと分かります (Fig.4) 。ある時、とし子さんは、なぜか山猫より10倍強く引っ張られていました。お兄さんの賢治さんは、なぜか山猫より30倍の強さで引っ張られていました。

f:id:fanon36:20180116172919p:plain Fig.5 単位はともかく比率を見てください

なぜか分かりませんが、こういうことが地上で起きているのは測定できます。山猫の引っ張られを1ヤマネコ(Y)とすると、とし子は10Y、賢治は30Yです。それぞれの引っ張られの大きさを、重力質量と呼びます(Fig.5) 。天秤で測るものです。

 

◾︎ 引っ張られた結果どうなるか

もし急に橋が折れたら3人はどうなるでしょう?とし子は山猫より10倍も強く引っ張られてるので、山猫よりビューっと速く落ちそうです。賢治は更に速く川に落ちるでしょう。とし子より3倍も強く引っ張られているのですから (Fig.6)。

…いいえ。彼らは同じ速さで川に落ちます。何故でしょうか?

 

f:id:fanon36:20180116174744p:plain Fig.6 こういうことは起こらない

 

◾︎ 加速しにくさ: 慣性質量

3人は今度は無重力の宇宙船にいます。フワフワと体重はありません。バネで同時に飛び出す実験をします。飛び出した1分後に、山猫は30メートル とし子は3メートル 賢治は1メートル進んでいました (Fig.7) 。人によって加速しにくさが違うようでした。山猫の加速しにくさを1山猫(Y)とすると、とし子は10Y、賢治は30Yだと分かります。これをそれぞれの慣性質量といいます。重力がある環境では摩擦抵抗や空気抵抗のために少し数値が変わりますが、だいたい同じです。

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  Fig.7 同時に同じ力で跳ね飛ばされる

 

◾︎ 橋から落ちたら

先ほどの橋から落ちた3人は、重力質量は賢治が山猫の3倍です。一方、慣性質量からみると賢治は山猫より3倍加速しにくいです。その結果、落ちるスピード(加速度)は山猫も賢治も同じになります。とし子も。加速度は質量には関係ないのです。

 

◾︎ 2つの質量が同じに見えること:等価原理

2つの質量は別々のスケールで測っています。1つは引っ張られの大きさ、1つは加速しにくさ。これらは何故同じ結果になるのでしょうか? 「何故重力は質量(慣性質量)に比例するのか」それはわかりません。しかし、そういうものなのだと思えば、星の運行をきちんと予測できるのです。

 

■ 一般相対性理論への出発点

何故そうなるのか分からない法則がある。理由は分からないが、それがいつも起きるということはそれが原理なのだという考え方から出発します (Fig.8)。

 

f:id:fanon36:20180116175041p:plain Fig.8 皆が転ぶ場合は床に原因がある

 

 

 

      《 *続く* 》

 

 

 

【おまけ:星の軌道】

惑星が太陽の周りを回っている軌道はいつも楕円を描いています。楕円というのは2点からの距離の合計が等しい点の集まりです。図のようにマグネット2個と紐を使って描くことができます (Fig.9)。

f:id:fanon36:20180112115706j:image  Fig.9 楕円を手で描く

太陽と惑星軌道の楕円は、太陽は1個しかありません。どこに位置するかというと、Fig.7のマグネットのどちらかの位置であることが分かっています。一方に寄っていてアンバランスな気がしますね。でもそうなのです。ただし2点間の距離がものすごく近いと、楕円は正円のようになります。地球の軌道はこんなふうにしてほとんど円です(Fig.10)。

f:id:fanon36:20180116172725p:plain Fig.10 楕円の中心のうちのどちらかが太陽

ブラックホールも質量が膨大だとはいえ星なので、この法則に沿います。私はSFのブラックホールは近づいたものはすべて吸い込んでしまう蟻地獄みたいなイメージを持っていました。実際は近づいたものはブラックホールを中心(のうちの一つ)とする楕円軌道に捕らわれます (Fig.11)。よほど近づいたものだけがホールに落ちていきます。

 

f:id:fanon36:20180116172803p:plain Fig.11 正しいブラックホールのイメージ

アンバランスにみえる星の軌道ですが、加速度は太陽に近づくほど大きくなりますから太陽に近ところを通るときは猛スピードで、離れるに従いゆっくりになります。単位時間当たりに進んだ軌道と太陽を結んだ扇形の面積は常に一定であることが観測されています (Fig.12)。

 f:id:fanon36:20180112115712j:image Fig.12 ケプラーの第2法則 

 

    

 

【考察】

■二つのmが同じであることを不思議と思えますか

   F= m*a(運動方程式

           F= GmM/r^2(万有引力

今回の連立方程式 (ニュートン運動方程式万有引力) を解く際に、参加者のほとんどは「二つのm (質量)を同じものとして約分するのはおかしいのでは?」と指摘することができました。私は二つの質量が同じであることの、なにが不思議なんだろう?と分かりませんでした。というのは、私のイメージでは

 ”はじめにニュートンが運動を表そうと思い立ったときに「力Fを、加速度aと質量mを使って関係を表してみよう」と考えて運動方程式を発見した。この時の質量とは秤で量った「重力質量」だった。”

 ”つぎにニュートン万有引力Fを見つけるときに、「月の軌道が地球側に落ちてくるなぁ」という理由で計算するとき月の質量は地球側への引っ張られを意味するのでこれも重力質量だった。だから万有引力の式に含まれるmは重力質量"

 

という感じでした。「二つの方程式内のmが同じでない」ということは、物理学的には気づくべき点(でなければ話が先に進まない)なのですが、私にはピンとこなかったです。不思議だと思うのは、実験の結果同じになるということです。

 

■ 慣性質量の方が信用できる気がする

なぜなら、重量質量って地上から高く離せば重さは軽くなったりして信用ならないです。地上の天秤で10kgの分銅と釣り合った鉄球は、地上100kmでも10kgの分銅と釣り合うから、こうして測定すれば同じですが、地球から離れれば離れるほど重力質量は小さくなる感じがします。それに比べて慣性質量は重力は関係なく一定だし、信用できる と思いました。

しかし、ばねで飛ばす方向が真横でなく上方である場合は、引力のせいで慣性が小さくなってそのうち落ちてきます。重力は関係ありましたね。これもそんなに信用ならない…。

 

■ 坂を滑り落ちるモノは重力も加速も区別できない?

変な顔の箱に働く力は重力(F)です (Fig.13)。箱から見て前向きの矢印 (重力の1成分、この場合は重力の半分) があるから、この箱は進みます。この箱の滑りにかかる力は箱質量m×加速度aでもあります。箱にとってみると、自分が加速度aで進んでいるのか、重力が半分の星で落下してるのか、分からないだろうなと思います。

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 Fig.13 この坂には摩擦がない。しかも真空

 

もっと単純なたとえでいうと、箱の中で重力がかかっているのか、この箱がエレベーターであって加速しているのか、中の人には区別はつきません (Fig.14)。それなら同じものでいいじゃないか、というのでしょうか。

f:id:fanon36:20180116174959p:plain Fig.14部屋は加速中のロケットかもしれない

 

 ■ 疑問

『そりゃあ重力うけてても私は大人しく立っていてスピードアップはしないけど、それは地面があるからであって、今あしもとが抜けたら加速しながら地底に引っ張られるのだから、重力は加速度と同じってことでいいじゃないか。何が問題なの??」って思うのは既に現代の常識で重力加速度という概念が私たちの感覚に組み込まれてるからでしょうか?

力の中で、作用する対象を加速させない力なんてあるのでしょうか。つよい磁石で鉄を引っ張れば、鉄は加速しながら磁石にぶつかりに行く気がするし、静電気でストローを転がすとき、等速じゃなくて加速する気がします。重力も力の一種なら物を加速させていい気がします。

 

   ⇓参考図書

世界を変えた科学10大理論―プラス40理論 (Gakken Mook 最新科学論シリーズ 26)

世界を変えた科学10大理論―プラス40理論 (Gakken Mook 最新科学論シリーズ 26)