大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

冥王星島17

斜面を ヤギが雪をけたてて降りてくる。拙い足取り。今年生まれのヤギだろう。重い雨戸は数日前にきれいに掃除したので滑りよく開く。その瞬間に日光とともに雪の匂いが本格的に吹き込んできた。暗い部屋で目覚めた時、布団の縁にひんやりと突き出した鼻先に雪の香りがしたから、予想通りで気分がいい。

遅く起きたので、空は明るく 足首くらいまで積もった雪が輝いている。舞い上がる雪片が同じ色の子ヤギの粉で、あんなに勢いよく遊んでいては擦り切れてそのうち仔ヤギが消えてしまいそうな錯覚を覚える。急がなければならない気持ちになって、さちは寝巻きの上にセーターとジャケットを着、玄関から持ってきた長靴で庭に出た。庭が途切れたところの道を挟んで始まる丘陵がヤギが転がっている斜面だ。

ここは中腹の町から更にバスで2時間かかる。蕎麦も木の子も終わり、山麓で収穫できるのは初雪だけだ。ヤギは相当峰の方にいて、ふもとに人間が出ても平気で遊んでいる。その方角を見上げると太陽が眩しい。さちは大きな岩の上に積もった雪に手を入れて真ん中の新鮮なやつを、フワフワのままつぶさないように気をつけながら素手でくるんで取り出した。寝起きの熱い口で齧ると何でもない水になって喉へ流れた。きれいなのに少し砂っぽいのが不思議だった。雪が作られる空気の中に砂?仔ヤギの粉?

祖父は昨日撃って冷たい川にいけてある猪を引き揚げに、朝早くから山へ行っている。そろそろ怖いことが起きるころだ。祖父は山から帰るとたまに「山でこんな怖いことがあった。」とさちに話す。長らく聞いていないし初雪だから今日あたり怖い目にあって、夕方にその話をするだろう。薄切りの猪肉を味噌焼きにしながら。さちは、子ヤギが粉になって冷たい砂っぽいかき氷になってさちに食べられた話をしよう。お爺さんが帰る前にさちは出来るだけ斜面の高いところまで登って、屋根を上から見たい。文字一つない白い教科書を伏せたように見えると思うからだ。

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