【謎空間】
神戸のとあるスペイン料理店。しかし全員が同じ座標系にいたとは限らない怪しい夜です。
【主人公の登場】
今回の主人公、ではなく「この世の主人公」です。彼がこの世の全てを決めていました。
しかしその前に、理解のための用語を勉強しました。
【座標系 Frame】
ある出来事をどこから観ているか、というフィールド。雨降りという出来事は、地上からみると雨粒が落ちてくるが、雨粒からみると地面が急接近しているとも言えます。だから雨の降り方を観たい場合は、「観測者は地上に静止している」という約束を登場人物全員の共通前提としたフィールドを設定する必要があります。そのフィールドを座標系といいます。例えば投手が投げたボールは、球場という座標系では120km/hですが太陽系というフィールドで見ると10万km/h (地球の公転速度)とかいう速度になります (Fig.1)。
Fig.1 座標系を設定しなければ運動は語れない。
【時空ダイヤグラム】
庭x(エックス)上の鶏は歩き回っていて1時と2時とでいる位置が違います。異なる時間の位置を重ねて描くと同じ庭x上に表せます (Fig.2)。鶏が1時間かけて右に歩いたのだと分かります。
Fig.2 1羽の鶏の位置の変化
ところが沢山の時刻になってくるとごちゃごちゃしてしまって、どう動いたのかよく分かりません (Fig.3)。
Fig.3 鶏の位置を1時間毎に7回観測したらごちゃごちゃ
そこで1時間立つごとに1cm上空に描くと重ならなくなって見やすいです (Fig.4)。鶏は右方向に歩いていたが、3時間目に何かに気づいてUターンしたと分かります。
Fig.4 鶏の動きが手に取るように
この鶏を・で表し、観測時間をもっと頻回にすると線になります (Fig.5)。上空に行くほど時間は経つので、縦軸tとします。位置 (space)と時間 (time)の情報が表されている こういう図をspacetime diagram (時空ダイヤグラム)と呼びます。
Fig.5 鶏の運動だけに注目
時間を無限に小さくスライスしたものを一方向から重ね透かして見たものも同じです (Fig6)。
Fig.6 現実の風景も実は時空ダイヤグラムの1コマ
【主人公】
Fig.7 彼の正体は何でしょう?
理屈抜きに全てを規定する存在 (Fig.7) なので主人公と呼びます。彼の特徴は、進み続けること、大きさは自在に変化すること、両手の長さはいつも同じということです。
壁の間に手足を突っ張って登る遊びをしたことがあるでしょう。そんな感じで進むので左右の手の長さは同じでなければならないのです。突っ張る距離が長いとそれに合わせてサイズが大きくなります (Fig.8)。両手の長さはいつも同じです。さあ彼は何者でしょうか?
Fig.8 土管の径が変わるとサイズを変えて登り続けるイメージ
【主人公の正体】
Fig.9 分かりにくいキャラクター
Fig.9 Aは光 (光速で動くもの) が進む距離です。Bはある時空ダイヤグラムの視点です。彼はある現象が起きる座標系を規定する法則です。次に、彼がどうやってその仕事をするのかが説明されました。
【座標系が異なると世界が異なる】
静止する主人公黒丸が発した光は360℃に広がります。時空ダイヤグラムにすると、時間軸を中心とした円筒形になります (Fig.10)。この座標系に属する黒丸にはそう見えます。
Fig.10 円錐の内側が黒丸の世界
黒丸の背後を高速で走る主人公白丸が、ちょうど黒丸とすれ違う時に発した光はどう広がっていきますか?黒丸にとってはFig.10の時と同じです。白丸にとっては?
【違う座標系からは運動はどう見えるか】
無風の海をゆっくり進む船の船尾で女の人が帽子を落としてしまう映像があるとします。帽子はフワフワとほぼまっすぐ海面に落ちました (Fig.11上)。しかし女の人から見ると、自分は帽子から遠ざかるのでまるで帽子が斜め下に遠ざかりながら落ちるように見えます (Fig.11下)。
Fig.11
では、黒丸とすれ違った時に白丸が発した光は、白丸からみると海に落ちた帽子のように歪んで進むのでしょうか (Fig.12)?
Fig.12 発した光源から遠ざかると光も歪んで見える⁇
じつは白丸から見ても その光は黒丸が見た形と同じです (Fig.13)。
Fig.13 動く白丸からみても自分を中心とした円錐形
発した光源から遠ざかる場合、その時刻に光が到達した点でできる円錐に両手Aをついて上まで登りたいのですが体Bの位置が右に動いているので水平のままだと左手のほうが短くなってしまいます。だから斜めになって両手の長さを長くする (Fig.14) ことで「両手の長さが同じで、進み続ける」という主人公の性質を維持できます。
Fig.14 白丸にとってはこれで問題ない
黒丸からみると、白丸の世界は奇妙に見えます。白丸の左右の手は水平から傾いているので、左手と右手の高さが異なり、tに投影するとそれらの時刻も異なります。白丸からすると、大きくはなっているが手の長さは左右同じで進んでいるという自分の特徴はちゃんと維持されているので問題ないのです。両手の真ん中にある胴体の軌跡が白丸にとっての時間t'です。
Fig.15 大切なのは時間でなく腕の長さ
黒丸時間t1における黒丸の手の長さa1は、白丸時間t'における白丸の手の長さa1'と同じになるとします(Fig.15)。t1は、いつもt1'より大きいことがわかります (Fig.16)。
Fig.16 上の図を簡単にしただけです
黒丸の時計はt1時間経ったのに白丸の時間はt1'時間しか経っていない。黒丸からは、白丸の時間はゆっくりと進んでいるように見えます。
(続く)
<参考図書>
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