大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

冥王星島12

コロ太は君枝の店で分けてもらったおかずを弁当にしてブラブラ揺らせながら、大粒の白砂が散らばる舗装道路を歩いている。サンダルが砂でちくちく心地良い。海が近い9月の午後4時。

 正式な住処というわけではないが、潅木の斜面が砂浜に合流するあたり、手前の岩壁が海側に突き出て、開けた南側の海水浴場から丁度いい目隠しになっている。その住処の片隅に手足の痩せた男が砂の上に横になっている。腹だけが破れそうに膨れあがっている。とてもゆっくりと小さく呼吸しているのが見える。痛そうな様子もなく、その人はじっと目を閉じている。踏み分け跡のある茂みの道を抜けてコロ太がそこに帰ってきた。お互い挨拶もなく、コロ太はそのまま荷物を置いたり弁当を解いたり作業を続け、男は目を閉じている。

月が昇る。左が少し欠けた月だ。カニが浜を横切る先に男が海を背に横寝している。膨れた腹のもう一段飛び出した臍あたりから、透明な水が染み出して月明かりを鈴のように反射しながら落ちていく。体の下の砂は水を吸い込んでキラキラしている。肝臓がダメなのだった。彼はもう起きない。
診療所に運んでも何にもならない。コロ太は明日も仕事が満載だ。すこし離れたところで小さく眠っている。朝になればいつものように売店に配達を終えた婆さんが上の道から覗いていくだろう。明日か明後日か、婆さんは先生を呼ぶかもしれない。最近は寝入る寸前に毎日そう思う。そうしたら君枝は自分をくびにするかもな、とコロ太はやや気がかりだ。毎年と同じ虫の音がリリリとする。きっと来年もだ。