おとといから、蝉の声が急にクリアだ。あんなに多くの鳴き方があることに初めて気が付いた。蝉の違いか、同じ蝉でも幾種類かの鳴き方をすることがあるのかもしれない。ものすごい調和でこの世のものとは思えない。このまま音に流されてあの世へ連れていかれそうだ。
19歳の孫は劇団のような学校に入り島を出たが、大変だったようで夏の途中に帰ってきた。今は黙々と近所の仕事場へ通っている。早朝に家を出るときはもう暑くて、勤め先に着く頃は汗だくだと言っていた。
あの子はああいう単純な仕事が向いている。良かった。
すこし涼しい時期になって、余計に蝉が大きくどんどん大きく鳴く。
ああ 運ばれる。こんなに涼しく、連れていかれるとは思っていなかった。本人だけが知っているし、いつもそうなのだ。日没後、または明日朝に、看護師かさとこの母が気づいたときはもう終わっているからだ。