大阪合気道自主稽古会

流派を問わない合気道の稽古場です。小説、漫画、などが混在しています。稽古記録はタグをご利用ください。出典明記があれば図の引用については問い合わせ不要です。。

冥王星島5

本島を朝一番に船が出るのは7時前だ。こちらの港には7時38分に着岸する。階田さんの婆さんは新聞と小物を売店に運ぶために、本島から毎朝やってくる。婆さんは売店に品物を置くと、東の浜を手早くパトロールして、岬の突端にある染野の庭先に来るのが8時24分だ。帰りの船は10時までないから、雨の日以外は染野家の庭を待合室にしていた。雨の日はどこで過ごすのか分からない。

 

婆さんが垣根の扉の、竹を輪っかにした鍵を外して開ける時ぎぃと音がする。その音を聞くと染野の母は麦茶を入れる。ちょうど婆さんが桟のところに腰をかけるとお茶が出てくるタイミングだ。

母親は食堂の手伝いで忙しい時がある。学校が休みの日には母親は婆さんの相手を染野に任せた。これは2年生の夏休みに、その婆さんから聞いた話である。

昔婆さんがまだ60歳くらいの時、お盆の前に墓掃除をしていた。暑くて汗だくになった。翌朝起きると動くたびに背中で音がする。それが全く痛くないのだが、だんだん音が大きくなる。婆さんは怖くなって同じ丁目の接骨院に行った。

すると接骨院の師匠は、これはもう少し動き続ければ足が立たなくなるところだった、危なかったと言い、婆さんの首根っこを鷲掴みにした。痛いと身を縮める間も無く師匠は背骨を引き抜いた。しかし骨は抜けていなかった。師匠が握っていたのは地味な色味の蛇だった。師匠はそれをかまどの神だといい、おかみさんに渡して生姜と共に佃煮にした。婆さんの背中の音は鳴り止んだそうだ。