まだ薄暗いうちに目が覚めた。昨夜にみんなでスイカをたくさん食べたからだと思った。居間の東に位置する自分の部屋は丸くて狭い。ドアは プールのシャワールームのみたいに白くて薄い金属製だから、気を付けて開けても カン・カチャ と小さく鳴る。
居間に面した部屋に住むのは小原さよだけで、他の住人は廊下を挟んだ奥の部屋にいたり、二階に住んでいたりする。小原さんは看護師の仕事をしているが本当に興味があるのは海洋生物である。
居間には大きなガラス窓がある。カーテンはなく見通しがよい。南側には高い木が重なっていて朝日を遮るので居間は暗い。家の中でも一番早く明るくなる自室から出ると、居間は暗くしーんとして海の底らしい。北向きの窓からは本物の海が見える。
入射角の浅い日光が反射してギラギラしている。海は大抵毎日穏やかなわりに、すぐそこなので潮の音がよく聞こえる。
小原さんはカン・カチャンと扉を閉めてそっと居間を歩いた。用を済ませて戻り、居間から直接外へ出られるガラス戸を小さく開けた。波の音とまだ涼しい空気が居間を満たした。よし。これ以上必要なものがあろうか。